2020年12月6日

新型コロナウイルス感染症の最新情報/学校保健、ワクチン、インフルエンザ

[1] 学校における新型コロナウイルス感染症

 文部科学省は123日、学校における新型コロナウイルス感染症の調査結果を発表しました(https://www.mext.go.jp/content/20201203-mxt_kouhou01-000004520_01.pdf)。

 学校活動が本格的に再開された61日から1125日までの間に、小学校・中学校・特別支援学校における感染者数は2079人、うち有症状者数は894人(43%)、重症者数はゼロという数値でした。全年齢層に占める小中学生の割合は非常に低く重症者がおらず、小児は成人に比べて感染しにくく感染しても重症化しにくい可能性が裏付けられています。その機序として、気管支上皮細胞で新型コロナウイルスの受容体であるACE2の発現が小児で少ないこと、自然免疫応答による防御システムが小児でより効率的であること等が仮説としてあげられています。加えて、各学校における感染拡大防止のための日々の取り組みが功を奏していると思われます。

2020年10月9日

新型コロナウイルスの最新情報/再感染、無症状者からの感染、死亡率の低下

  今冬、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の同時流行が懸念されています。現時点で今後の動向を正確に予測することはできませんが、インフルエンザワクチンを接種して流行に備えておくことは有用です。新型コロナウイルスについても、知識をアップデートして「正しく恐れる」姿勢を保つことが大切と思います。

2020年9月8日

「心の幸福度」について考える

 ユニセフ(国際児童基金)は9月3日、先進・新興国38ヶ国に住む子どもたちの幸福度を調査した結果を公表しました。日本の成績は以下のとおりです。
 ○ 精神的な幸福度(生活満足度が高い子どもの割合、自殺率):37位
 ○ 身体的健康(子どもの死亡率、過体重・肥満の子どもの割合):1位
 ○ スキル(読解力・数学分野の学力、社会的スキル):27位
 ○ 総合順位:20位

 心の幸福度が下から2番目という、非常にショッキングな結果でした。内容を詳しく見ると、15歳の時点で生活満足度の高い子どもの割合は、1位のオランダが90%に対して、日本は下から2番目の62%でした。15〜19歳の10万人あたりの自殺率は、最少のギリシャが1.4人に対して、日本は約5倍の7.5人(下から12番目)でした。「すぐに友達ができる」と答えた15歳児の割合は、1位のルーマニアが83%に対して、日本は下から2番目の69%でした。わが国の子どもたちの心の健康〔メンタルヘルス〕がきわめて低い水準にあることがうかがい知れます。また、各国に共通に見られる現象として(日本も例外ではなく)、家族からのサポートがより少ない子どもたち、いじめに遭っている子どもたちは、精神的な幸福度がより低い結果になっていました。

2020年8月30日

新型コロナウイルス感染症に伴う子どもの心身症

 新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから、ほぼ半年が過ぎました。この間、子どもたちは「普通でない」生活を強いられてきました。全国一斉の休校措置、家庭内での補習学習、短い夏休み、過密なカリキュラム、各種イベントの中止、感染防御のための細々した決まり事など、子どもたちにとってストレスの多い環境が長く続いています。今のところ事態の収束を見通すことができません。

 心理社会的刺激(ストレス)が子どもたちに与える影響は小さくありません。当院において4月以降、心身の不調を訴える子どもが急増しています。おそらく心因反応にもとづくと思われる、頭痛、食欲不振、腹痛、倦怠感、息苦しさ、不眠、めまい、チック症(まばたき、声出し、首振り)、登校困難などの諸症状を呈する子どもたちを数十人ほど診てきました。当院は情緒安定作用を有する漢方薬を積極的に使用して、多彩な症状を緩和することに努めています。漢方薬は西洋薬(向精神薬)と異なり、副作用がほとんどなく依存性を生じないため、子どもにも安心して使用することができます。ただし薬だけで全てを解決することはできません。環境を変える努力が求められます。

2020年8月9日

新型コロナウイルスの最新情報/変異、ワクチン、うがい薬

[1] 新型コロナウイルスの遺伝子変異(新・新型コロナウイルス?)
 国立感染症研究所は、新型コロナウイルスの遺伝子解析の結果から、「感染症は5月にいったん収束に向かったものの、軽症者や無症状者の間で密かに受け継がれ、6月以降に再び顕性化して全国に拡散中」と発表しました(8月7日)。報告書によりますと、3月中旬以降に国内で広がったウイルスは、中国・武漢からヨーロッパを経て入ってきた「ヨーロッパ系統」で、5月にいったん収束しました。6月中旬以降に感染が再拡大して現在に至りますが、今度は「ヨーロッパ系統」の遺伝子の一部が変異した新ウイルスが主役です。おそらく軽症者や無症状者による感染が水面下で続いていて、この間に変異を生じたのだろうと推測されます。なお、病原性が強くなったり弱くなったりする変異は確認されていません
 感染者が急増しているにもかかわらず重症者や死亡者が大きく増えないため、ウイルスが弱毒化しているのではないかと期待する言説がありますが、今のところ確たる証拠はありません。第一波では見逃されていた軽症例が、検査体制の拡充により診断されるようになったことが主な理由と考えられます。軽症者は感染を広げやすいので注意が必要です。体調が良くない時は「自分は新型コロナウイルスに感染しているかもしれない」と考えて、外出を控えて療養に努めることが肝要です。

2020年6月12日

新型コロナウイルス感染症:子どもたちのストレスと不安を解消しよう

 新型コロナウイルス感染症がようやく収束に向かっています。東京や北九州市で感染者が増えて「第二波か!?」と心配されましたが、これは第二波ではなく、抑え込みが不十分な状態で緊急事態宣言が解除されたため、隠れていたウイルスがまた姿を現しただけです。しかし、冬のウイルスであるコロナウイルスは、夏にいったん減衰しても、秋以降に再び猛威を振るう可能性があります。油断は禁物です。当分の間、新型コロナウイルスと対峙する日常を覚悟しなければなりません。

2020年5月22日

小児の新型コロナウイルス感染症の特徴

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第一波は収束しつつあります。首都圏と北海道でも緊急事態宣言が解除される日は近いと思います。しかし第二波、第三波は必ず来ます。咳エチケットを励行する、三密を避ける、体調不良時は無理せず静養する、などの基本的な対策は継続しなければなりません。「他人への優しさと思いやり」がこのウイルスを撃退するキーワードです。

 第一波を通じて、小児におけるCOVID-19の特徴が明らかになりつつあります。今回のコラムでは、その概要を解説いたします。

2020年5月10日

食物アレルギーの子どもに理解と支援を

 食物アレルギーは、食物に含まれる成分が体内で有害な異物と誤認されて免疫反応が起こり、生体に不都合な症状(蕁麻疹、咳、嘔吐、アナフィラキシーショックなど)をきたす病気です。免疫は本来、生体にとって有害なもの(病原体、がん細胞など)を排除する機能ですが、ここに不具合を生じると食物アレルギーを発症することがあります。

2020年4月15日

思春期に生じやすい鉄欠乏性貧血

 小児で鉄欠乏性貧血が起こりやすい時期は、鉄の需要が急速に増大する離乳期と思春期の二回です。前回のコラムで、赤ちゃんの脳に鉄分を補給することの大切さを解説しました。今回は、育ち盛りの思春期における鉄分補給の重要性を解説いたします。

2020年4月12日

新型コロナウイルス感染症への対応(第9報)

[1] 緊急事態宣言:私たちにできること
 4月7日に緊急事態宣言が出されました。新型コロナウイルスの爆発的流行の瀬戸際にあって、私たちにできることは「不要不急の外出を避け、特に密閉・密集・密接の場所に行かないこと」「咳エチケットと手洗いを励行し、ウイルスをもらわない・わたさない意識を持つこと」です。若い人たちは、感染しても軽症で済む可能性が高いため危機感が薄いかもしれません。しかし、若い人も一定の確率で重症化しますし、高齢者や基礎疾患保有者など重症化しやすい人たちへの感染源になり得ます。今は我慢する時だということを、ぜひ理解していただきたいと思います。
 外出が全面的に禁止されているわけではありません。子どもの心身の発達にとって、外遊びは大切です。ルールを決めて感染リスクを下げて、公園などで遊ぶことは大丈夫です。風邪症状がある時は外出しない、他人との距離を保つ(人混みに近寄らない)、遊具に触れた手を口・鼻・目にもっていかない(こまめに手洗いする)などを心がけて、子どもと一緒の時間を楽しく過ごしていただきたいです。このような非常時こそ、親子の絆を強める好機と捉えましょう。

2020年4月5日

新型コロナウイルス感染症への対応(第8報)

 新型コロナウイルス感染症をめぐる情勢が急展開中です。都市部を中心に感染者が急増しています。クラスター(集団)感染が次々に報告される一方、感染源が分からないケースも増加しています。クラスターの発生は主に若年層の行動に起因しますが、最近は中高年層にも増えています。会合・集会(カラオケ、ライブハウス、バーなど)、海外への卒業旅行、サークル活動(ダンス、合唱など)、病院内感染、高齢者・福祉施設内感染などがクラスターの発生箇所です。感染をこれ以上拡大しないために、「3つの密」(換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面)を避けるための取り組み(行動変容)を、より強く徹底する必要があります。国民ひとりひとりの自覚が大切です。とくに若年層の人たちは、「感染しても自分は軽く済むから大丈夫」と考えずに、自分が感染することが家族や友人などコミュニティ全体に影響を及ぼし、その結果として重症化しやすい人たち(高齢者、基礎疾患保有者)を死に至らしめる可能性があることを知ってもらいたいと思います。海外では人どうしの間隔を2メートルあける「ソーシャル・ディスタンシング」が推奨されています(2メートルは飛沫が届かない距離です)。日本でも若年層の人たちに率先して広めてもらいたい取り組みです。

2020年3月20日

新型コロナウイルス感染症への対応(第7報)

 新型コロナウイルス感染症の専門家会議(3月19日開催)は、感染拡大について「今のところ持ちこたえているが、一部の地域では拡大も見られる。大規模流行の危険は去っておらず、引き続き慎重な対応が必要」と提言しました。緊急事態宣言(2月28日)後の北海道で新規感染者が減少し始めている一方で、東京、愛知、兵庫などの都市部では感染経路を追えない新規感染者が依然として増えています。ヨーロッパの各地で起きている爆発的な感染者の急増(オーバーシュート)が日本で起きないとは限りません。危険な状況はまだ続いています。北海道で効果が実証されたように、人と人との接触をできるだけ絶つために「三つの条件が同時に重なる場(換気の悪い密閉空間、人の密集、近距離での会話や発声)」を避ける努力は、感染拡大を防止する上で重要です。感染が現在も拡大傾向にある地域では警戒態勢の継続が求められますが、収束に向かい始めている地域ではリスクの低い活動から徐々に解除を検討することが認められました(ただし、感染が再拡大し始めたら再び自粛態勢です)。大和市は3月25日からの学校再開を決定しました。現状では来年度の入学式を4月6日に開催する予定です。子どもたちの元気な声を再び聞ける日が待ち遠しいですね。その他、新型コロナウイルスについて現時点で判明していることをまとめました。既報(第1〜6報)と重複する内容も含まれますことをご了承ください。

2020年3月13日

乳幼児の鉄欠乏は脳神経発達に影響する

 乳児期後期から幼児期初期(生後6ヶ月から2歳)にかけて、鉄の需要と供給のバランスが負に傾くと、鉄欠乏性貧血を生じます。この時期の鉄欠乏は、中枢神経系の働きに悪影響を与え、精神運動発達の遅れを招くことが明らかになっています。このところ新型コロナウイルス感染症の記事が続いたので、今回のコラムは話題をがらりと変えて、赤ちゃんの脳に鉄分を補給することの大切さを解説いたします。

2020年3月8日

新型コロナウイルス感染症への対応(第6報)

 感染経路が特定できない新型コロナウイルスの事例が各地で報告されています。流行状況は水際対策期を過ぎて感染蔓延期の入口に差しかかりました。さいわい大規模な感染拡大が認められる地域はなく、封じ込め対策の効果はまだ期待できます。北海道など感染拡大地域のデータ解析から明らかになったことは、症状の軽い人が気づかないうちに感染を拡大させている可能性が高いこと。なかでも若年者は重症化する割合が低く、活動範囲が広く、結果として重症化しやすい中高年層にまで感染を広げています。封じ込め対策による日常生活への影響は甚大ですが、北海道ではその効果が現れつつあり、感染者の増加のスピードが鈍っています。もうしばらくの我慢かと思います。その他、新型コロナウイルスについて現時点で判明していることをまとめました。

2020年2月24日

新型コロナウイルス感染症への対応(第5報)

 新型コロナウイルスの感染拡大が連日、報じられています。2月24日現在の日本の状況は「感染蔓延期」の直前です。水際対策や封じ込めを狙う時期はもう過ぎました。ウイルス伝達の経路を追えない感染者が増えていますし、それに伴い小児の感染者も増えています。この先「市中感染」として、2〜3ヶ月間の流行が続くと予想されます。このような非常時こそ、冷静を保ち「油断せず、恐れ過ぎず」を心がけるべきで、そのための方策を一緒に考えていきましょう。

2020年2月16日

新型コロナウイルス感染症への対策(第4報)

 新型コロナウイルス感染症が新たな局面に入りました。これまでの感染者は渡航歴や接触歴を明確に把握できていましたが、2月13日以降、誰からウイルスをうつされたか分からない(感染経路を追えない)事例の報告が相次いでいます。米国疾病対策センター(CDC)は、「この疾患の範囲は当初の想定よりもはるかに広い。無症状の人からも感染する可能性がある」とコメントしました。水際対策の段階はすでに終わっており、今後は「市中感染」としての拡大をどれだけ食い止めるか、重症化しそうな人をどれだけ適切に治療できるか、に焦点が移ると思われます。2月15日時点の最新情報をお伝えいたします。

2020年2月12日

新型コロナウイルス感染症への対策(第3報)

 新型コロナウイルス感染症に関する最新情報をお届けいたします(2月12日時点)。
・潜伏期は1〜12.5日(平均5.2日)
・感染力は季節性インフルエンザと同等(1人の感染者から1.4〜2.5人に拡散)
・病原性は季節性インフルエンザ相当か、それよりもやや強い。軽症から重症まで幅広いが、軽症者が多い。無症状で終わる場合もある
・症状の特徴は1週間ほど続く風邪症状(微熱、咳、倦怠感)。そのまま治る人と1週間後に呼吸困難を生じて肺炎に進む人がいる。肺炎を発症しても重篤な状態に至るケースは多くないが、高齢者や持病のある人では注意が必要で、日本においても複数名の重症肺炎が報告されている
・中国ばかりで死亡率が高い理由は不明。十分な医療を受けられない、重症者だけが検査診断されている(軽症者は検査を受けられず見逃されている)、などの理由があげられる
・感染経路は飛沫感染と接触感染。空気感染はない

2020年2月8日

幼稚園・保育所における感染症対策2

 前回のコラムで幼稚園・保育所における感染症対策の難しさを述べました。免疫能の発展途上にある乳幼児において、一日を通して衣食住を共にする園内で、病原体をうつされて風邪をひくことは日常茶飯事です。幼稚園・保育所で感染症の流行を百パーセント阻止することは不可能と言わざるを得ません。個々の感染症の特性を理解した上で適切な対処がなされればよいのですが、医学的な根拠に欠ける不適切な指示が出されて保護者と園児が「無駄な努力」を強いられる場面に遭遇することもあります。実例をあげましょう。

2020年1月24日

幼稚園・保育所における感染症対策1

 子どもたちが集団生活を送る幼稚園・保育所には、様々な病原体(細菌、ウイルス)が持ち込まれ、それに起因する感染症がしばしば流行します。園のスタッフは対応に追われ、気苦労は相当なものであろうと推察します。感染症を発症した園児を隔離し登園停止にする措置は、感染の拡大阻止の基本中の基本です。しかし隔離と登園停止だけで感染症の蔓延を防ぐことはできません。幼稚園・保育所における感染症対策の難しさについて解説します。