まず、登園停止が必要な疾患をあげましょう。麻疹、風疹、水痘(みずぼうそう)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、百日咳、インフルエンザ、咽頭結膜熱(プール熱)、結核、髄膜炎菌性髄膜炎などの感染症は、学校保健安全法で隔離が求められています。もしも発症したら、登園してはいけません。また、これらの感染症以外の疾患(たとえば普通の風邪)でも、本人の体調がすぐれなければ、登園を停止して自宅で療養することが適切でしょう。
では、隔離と登園停止を厳格に行えば、病原体と感染症は制圧できるでしょうか。答えは残念ながらノーです。隔離と登園停止が感染の拡大阻止に必ずしも有効でない理由が幾つかあります。
(1) 潜伏期:病原体が身体に入ってから症状が現れるまでに少々の時間差があります。水痘や流行性耳下腺炎を発症した園児を隔離しても流行が止まないのは、潜伏期に登園して病原体を排出するためです。つまり、病気を発症する前から感染源になります。これらの感染症は、ワクチン接種で予防することが肝要です。
(2) 不顕性感染:病原体が体内に入り込んでも、症状が現れないことがあります。風疹、流行性耳下腺炎、インフルエンザ、ノロウイルスなどは、一部の子どもで不顕性感染のまま治ってしまいます。無症状でも病原体は排出するので、自分が気づかないうちに感染源になります。ワクチンで予防できる病原体に対しては、やはりワクチン接種が肝要です。
(3) 治癒後の病原体の排出:症状が消えた後に病原体が体内に残り、排出が続くことがあります。ノロウイルスやロタウイルスなどの胃腸炎、手足口病やヘルパンギーナなどの夏風邪が代表例です。治ったように見えても、2〜4週間は便中にウイルスが排泄されます。しかし、その間ずっと登園停止にすることは現実的ではありません。ロタウイルス以外にはワクチンが無いので、おむつ交換などで便に触れる機会があった後の手洗いが感染の拡大防止に有効です。
(4) 年齢による症状の差:RSウイルスは、赤ちゃんがかかると重症化して細気管支炎や肺炎を起こすことがあります。成長した後も繰り返し感染し、年齢が上がるにつれて症状が軽くなります。ただの風邪(鼻水や咳だけ)と思われている年長児が、RSウイルスの感染源かもしれません。重症化した赤ちゃんだけを隔離しても、感染の拡大阻止はできません。かといって、鼻水や咳が出ている子どもを一律に登園停止にすることはできない相談でしょう。
以上の理由により、幼稚園・保育所では年がら年中、何らかの感染症が流行しています。これを完璧に避けることは叶いません。感染症の原因は目に見えない微生物であり、誰もが伝染うつされる危険があるため、不気味なイメージが先行しがちですね。しかし闇雲に怯えているだけでは駄目です。正しく恐れる(警戒する)姿勢が大事です。そのために必要なことが三点あります。第一に、予防接種で防げる病気(VPD)に対して、ワクチンを確実に接種しましょう。定期接種も任意接種も重要度は同じです。第二に、日ごろから健康と衛生に対する意識を高め、咳エチケットや手洗いの習慣を身に付けましょう。第三に、感染症に関する正しい知識を習得しましょう。情報源としてのインターネットは玉石混淆です。多くの記事はいい加減な憶測や思い込みに基づいて書かれています。信頼できるかかりつけ医や公益目的の医療機関(日本小児科学会、日本小児科医会、大学医学部・病院など)が発信する情報を活用することをお勧めいたします。