2021年11月14日

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の積極的勧奨の再開

 子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチンについて、接種の「積極的勧奨」を再開することが1112日に決定されました。ワクチンをめぐる8年間の混乱がようやく収束し、ワクチン接種の再開に向けた動きがこれから加速することになります。

2021年9月23日

新型コロナワクチンの三回目接種 (9月29日 一部加筆)

 米国、英国、イスラエルなど世界に先駆けてワクチン接種を始めた国々で、ワクチンを接種したにもかかわらず新型コロナウイウルスに罹る「ブレークスルー感染」が問題になっています。その要因に、(1) ワクチン接種後の中和抗体が徐々に低下していること、(2) 逃避変異(免疫から逃れる変異)を持つデルタ株が蔓延していること、の二つがあげられています。その結果、感染予防効果が大きく低下しています。たとえば英国スコットランドの調査で、デルタ株に対する感染予防効果は79%にとどまり、それ以前に主流だったアルファ株(英国株)の92%を下回りました。他の国々でも同様の結果が出ています。ただしワクチンの効果は中和抗体(Bリンパ球による液性免疫)だけではなく、Tリンパ球による細胞性免疫も加わるため、重症化予防効果は大きく落ち込んではいません。たとえば米国における調査で、高齢者の入院阻止効果(重症化予防効果の目安の一つ)は88%の高水準を保っています。

2021年9月1日

新型コロナウイルス 小児への感染拡大 (9月2日 一部加筆)

 新型コロナウイルス感染症の第5波で、10歳未満の小児にも感染が拡大しています。大和市内における10歳未満児の感染者数は、本年16月の6ヶ月間に50人であったのが、78月の2ヶ月間で151人に達しています。感染力の強いデルタ株(インド由来の変異株)の蔓延がその理由です。

 小児は新型コロナウイルスに罹っても重症化しにくいと言われています。確かにその通りですが、感染者数が増えると重症者数も一定の割合で増えます。なかでも基礎疾患(肥満、慢性腎疾患、慢性肺疾患、先天性心疾患、先天代謝異常、糖尿病、免疫抑制状態など)を有する小児は重症化のリスクが高いとされており、注意が必要です。東京都内で7月、10歳未満の女児2人が重症になったと報告されました。大和市内で本年8月までに報告された10歳未満児201人の重症度は、無症状64人、軽症137人、中等症・重症0人です。

2021年8月1日

食物アレルギーを意識した、離乳食の進め方

 食物アレルギーの有病率は年々増加傾向にあり、乳児で510%、幼児で5%、学童期で1.53%とされています。育児中の親御さんにはご心配事も多いと思われます。今回のコラムは、離乳食に関して日常診療でしばしば承るご質問にお答えする形で記します。

 [1] 食物アレルギーの発症予防に、妊娠中・授乳中の母体の食物除去は有効ですか?

 妊娠中や授乳中に母親が食物を除去しても、子どもの食物アレルギーを予防することはできません。いつもどおりの食事をお楽しみください。ただし、子どもがすでにアトピー性皮膚炎を発症している場合のみ、授乳中の食物除去により皮膚症状が軽減することがあります。

2021年6月30日

新型コロナワクチン 若年層への接種も大切です

 東京都内の新型コロナウイルス感染者のうち、20代と30代の割合が5割を超えていることが報告されました。ワクチン接種が進む中、60代以上の感染者は減少傾向にあり、社会の中で最も活動的な若年層への感染が顕著な状況にあります。大和市でも同様の傾向が認められ、20代の感染者が突出して多くなっています。若年層は重症化しにくいという理解が広まっているほか、副反応への警戒感から、ワクチン接種に慎重な若者も少なくないようです。しかし、若年層にも後遺症に苦しむケースが散見されること、ワクチンの有効性は極めて高く重大な副反応の頻度は低いことから、筆者(玉井)は若年層の方々へのワクチン接種を強く推奨します。

2021年6月14日

RSウイルス感染症 〜 季節外れの流行 〜

 乳幼児に肺炎を起こすことのあるRSウイルスが流行しています。例年は78月に流行が始まり、910月にピークを迎え、11月以降に収束します。しかし今年は3月から感染者が徐々に増え始め、6月時点でまだ増え続けています。国立感染症研究所によると、現行方式で統計を取り始めた2018年以降で、最多の20199月に迫る勢いです。この時期の流行は異例のことです。

RSウイルスは、感染者の咳やくしゃみ、鼻汁から感染します。年長児は上気道炎(かぜ)で済むことが多いですが、年少児、とくに生後半年以内の乳児、早産児、心肺に基礎疾患を持つ乳幼児などでは、重い細気管支炎や肺炎を起こすことがあります。特効薬やワクチンはありません。一度かかっても終生免疫が成立せず、何度もかかります。ある程度の免疫は獲得され、かかるたびに症状は軽くなります。マスクの着用や手洗いによる予防は有効です。RSウイルス感染症の詳細は、院長のコラム「RSウイルス感染症 〜乳幼児にとって厄介な病気〜」(201210月)をご参照ください。https://tamai-kids.blogspot.com/2013/10/rs.html#more

RSウイルス感染症は昨年(2020年)、年間を通じて流行しませんでした。新型コロナウイルス対策でマスクを着用する人が増えたことや、幼稚園・保育園が休園したことが影響していると考えられます。通常であれば免疫を獲得するはずであった子どもたちの多くが免疫を持っていないため、今年は感染が急拡大しているのではないかと推測されます。今年のRSウイルス感染症の特徴は、1歳未満の乳児だけでなく13歳児にも重症例がときどき見られることです。子どもが激しい咳をしていたり息苦しそうな素振りを見せたりしていたら、早めに医療機関に相談されることをお勧めいたします。

インフルエンザに関して、同様の事態が起こらないか気になります。2020/21年のシーズン、インフルエンザはまったく流行しませんでした。次のシーズンに大きな反動が起こる可能性が米国の一部の専門家の間で指摘されています。さいわい、インフルエンザにはワクチンがあります。有効率は3070%で満足できる高さではありませんが、無防備であるよりはずっと安全・安心です。当院は9月上旬にワクチン受付を開始いたします。詳細はホームページに掲載する予定です。

 

2021年4月25日

新型コロナウイルスワクチン 世界と日本の接種状況

 新型コロナワクチンの接種は世界185ヶ国・地域で始まっています。世界全体の累計接種回数は、422日までに95千万回を超えました。すでに国民の半数以上が接種を終えた英国やイスラエルでは、感染者数が急減しています。

2021年2月24日

シルガード9:新しい子宮頸がん予防ワクチン

 子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することで発症します。日本で毎年、若年層を中心とした女性の約1万人が子宮頸がんに罹患し、約2900人が死亡しています。子宮頸がんがマザー・キラーと称される所以です。そのような状況の中、世界はHPVワクチン接種による子宮頸がん撲滅の活動を展開しています。ワクチン先進国のオーストラリア等では、子宮頸がんは10年後に「稀少がん」としてほとんど見られなくなるだろうと予測されています。一方で、先進国の中で日本だけは「ワクチンの積極的接種勧奨の一時的差し控え」という不合理な施策を数年前から続けていて、世界の潮流から完全に取り残されています。世界保健機関(WHO)は日本を名指しで、「若の女性たちが命の危険に晒されている」と非難し、接種勧奨の再開を強く求めています。

2021年2月15日

子どもにサプリメントは必要か?

 サプリメントは、健康の保持や増進を目的とする補助食品のひとつで、特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品と定義されます。昨今の健康ブームの影響を受けて、多種多様なサプリメントが世の中に出回っています。では、子どもにサプリメントは必要でしょうか? 結論を最初に言いますと、日本に住んでいる健康な子どもで、十分量の食事を摂っていれば、必要な栄養素はすべて食事でまかなえます。サプリメントは基本的に必要ないと思います。「今どきの野菜は栄養が少ない」などの不安を煽る文言に科学的な根拠はほとんどありません。

2021年1月26日

新型コロナウイルス/マスクの効果、ワクチンの効果

[1] マスクの効果

 インフルエンザなどの呼吸器感染症は「発症した後から周囲に感染させる」ため、感染した人だけがマスクを着用すれば十分でした。しかし新型コロナウイルスの感染力は発症3日前から5日後までが最も強く、「発症前の無症状の時期から周囲に感染させる」ため、すべての人がマスクを着用することが理にかなっています。健康そうに見えても、「自分はウイルスを保有しているかもしれない、他人にうつすかもしれない」と考えて慎重に行動していただきたいと思います。

2021年1月1日

新型コロナウイルスワクチンへの期待

 新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない中、希望の持てる話題を提供したいと思います。新型コロナウイルスワクチン(以下、ワクチンと略)の最新情報です。

 日本で薬事承認申請中の米国ファイザー社製ワクチンの第三相臨床試験の成績が学術誌に掲載されました(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2034577)。18歳以上の約43千人の被験者を偽薬(プラセボ)投与群とワクチン投与群の2つに分け、約100日間の経過を追ったところ、新型コロナウイルス感染症に罹患した人は、偽薬投与群(ワクチンを接種しなかった群)で162人、ワクチン投与群で8人という結果でした。しかも、偽薬投与群では日数の経過とともに罹患者が直線的に増えたのに対し、ワクチン投与群では接種後2週間から先は罹患者がほとんど出ませんでした。ワクチンを接種することにより発症リスクを95%減らすという結論になります。「新型コロナウイルスに接した(であろう)人のうち、これまで10人だった発症者が1人以下になる」と言い換えることもできます。学術的な検証がしっかり為された説得力のあるデータです。また、米国モデルナ社製ワクチンも同様の臨床試験により、有効率94%の成績を出しています。