2021年11月14日

子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の積極的勧奨の再開

 子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐワクチンについて、接種の「積極的勧奨」を再開することが1112日に決定されました。ワクチンをめぐる8年間の混乱がようやく収束し、ワクチン接種の再開に向けた動きがこれから加速することになります。

 HPVワクチンは2010年に公費助成が始まり、20134月に小学6年から高校1年女子を対象とする定期接種になりました。ところが接種後に見られた様々な症状をメディアが「ワクチンの副反応」とセンセーショナルに報道したことから安全性への不安が増大し、同年6月に積極的勧奨が差し控えられ、ワクチンの通知が対象者に届かなくなりました。HPVワクチンの存在を「知らない」と答える方も多く、2010年からの3年間で70%を超えていた接種率は2013年以降1%未満に低迷し、世界中で日本だけがワクチンの接種機会を与えられない異常事態に陥っていました。この間にも毎年、約1万人が子宮頸がんに罹り、約3千人が死亡しています。世界保健機関(WHO)は「日本の若い女性はHPVによるがんの危険に曝されている」と、ワクチンの問題解決を放置し続ける日本を名指しで非難していました。

 HPVワクチン接種後の副反応の多くは、接種部位の痛みや腫れです。これらは免疫応答に際して起こり、接種した人の約89割に見られます。接種後13日で軽快します。これとは別に、頻度として1%未満ではありますが、全身の脱力・しびれ感、四肢の痛み・麻痺などの「疼痛または運動障害を中心とする多様な症状」が報告されています。これらは注射に対する緊張・不安やその人を取り巻く身体的・心理的・社会的問題が引き起こす「予防接種ストレス関連反応(ISRR)」とよばれ、HPVワクチンに限らず様々な注射や外傷などが誘因になります。名古屋市で約3万人の女性を対象とした調査研究で、「多様な症状」はHPVワクチン接種者と非接種者で出現頻度に差はなく、HPVワクチンとの因果関係は証明されないと結論されました。

 HPVワクチンの有効性については、諸外国から多くのデータが出ています。ワクチン接種を早期に導入したオーストラリア、英国、米国、北欧などの国々で、HPV感染や子宮頸がんの前がん病変が有意に低下しています。中でもワクチンと検診が最も進んでいるオーストラリアで、2028年に世界に先駆けて新規の子宮頸がん患者はほぼいなくなるとのシミュレーションが出されました。世界全体でも、HPVワクチンと検診を適切に組み合わせることで、今世紀中のがん撲滅(人口10万人あたり4人以下)が可能であるとのシミュレーションが出されています。子宮頸がんの予防において、日本だけが世界の潮流から大きく取り残されています。非常に憂慮される事態です。

 当院はこれまでもHPVワクチンの安全性と有効性を院内報やホームページで発信し、ご理解とご賛同をいただいた方々にワクチンを接種してきました。今後さらに接種を推進してまいります。ごく稀に起こりうる接種後の体調不良に関しては、丁寧な対応が必要と考えています。神奈川県内で「多様な症状」に対応できる医療機関(横浜市立大学、北里大学など)と連携いたします。

 HPVワクチンには3種類があります。サーバリックスは子宮頸がんの原因の67割を占める16型と18型に対する免疫を作ります(2価ワクチン)。ガーダシル1618型に加えて性感染症の尖圭コンジローマなどを起こす611型に対する免疫も作ります(4価ワクチン)。これらは定期接種の扱いです。シルガード96111618型に加えて3133455258型に対する免疫を作ります(9価ワクチン)。子宮頸がんの原因の約9割をカバーします。残念なことに、定期接種として未登録で、有料の任意接種の扱いです。

 HPVワクチンを「一次予防」とすると、子宮頸がん検診は「二次予防」です。ワクチンで防ぎきれない部分を検診でカバーしますが、検診の精度にも限界があります。検診でがん患者を正しく「陽性」と見つける感度は5070%です。ワクチンと検診を組み合わせることで、子宮頸がん予防の確率を大幅に高めることができます。しかし、日本の検診受診率はわずか40%台で(特に20歳代が低く)、欧米先進国の7080%台に比べて大きく低迷しています。がん予防への意識改革が求められるところです。

 [追記(11月17日)]厚生労働省は1115日、積極的勧奨が中止されていた間に接種を逃した女性に対し、無料接種の再チャンス(キャッチアップ接種)を与える方針を決定しました。詳細は未定ですが、開始時期は20224月から、対象者は平成917年度生まれの女性と見込まれています。

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