2013年11月10日

おたふくかぜ・水痘ワクチンの二回接種 (2013年12月29日、一部改訂)


 日本はワクチン後進国です。関係者の努力により、少しずつ世界標準に近づいていますが、それでもまだ大きく遅れをとっています。遅れの最たるものの一つは、おたふくかぜ、水痘、B型肝炎の各ワクチンが、いまだ定期接種化されていないことです。今回は、おたふくかぜワクチンと水痘ワクチンの必要性・重要性について考えてみましょう。

 おたふくかぜワクチンは、1982年に販売が開始されました。しかしその後30年以上にわたり、任意接種のまま “放置” されています。世界的にみると、国連加盟国193ヶ国中120ヶ国で定期接種化されています。先進国の目安であるOECD加盟国でみると、34ヶ国中33ヶ国で定期接種化されています。しかもそのうちの28ヶ国では、1995年以前に定期接種化されています。日本が世界標準から大きく取り残されている現状が、十分にご理解いただけると思います。

 日本におけるおたふくかぜの罹患者は、毎年数十万人にのぼると推測されます。おたふくかぜの合併症である “ムンプス難聴” の発生頻度が千人に一人とすると、毎年数百人の子どもの片耳が聞こえなくなっています。片側の難聴があると、音の方向が分からない、障害側で小さな音が聞き取れない、騒がしい場所で声が聞き取りにくい、などの不都合を生じます。おたふくかぜは後天性難聴の原因疾患の第一位です。

 水痘ワクチンは日本で開発され、1986年に販売が開始されました。しかしこちらも長らく任意接種のまま “放置” されています。世界的にみると、北米、欧州の一部(ドイツなど)、隣国の台湾や韓国などで定期接種化されています。日本は優れたワクチンを製造する能力がありながら、厚生行政の無為無策により、定期接種の機会を与えられていないのです。[追記;厚労省は2013年12月、水痘ワクチンを2014年10月から定期接種化すると発表しました。実施方法の詳細は未定ですが、1〜2歳までに一定期間をおいて2回接種することが基本になりそうです]

 水痘は軽い病気と思われがちですが、まれに脳炎や肺炎などを起こして重症化します。免疫不全の人が罹患すると重症化が著しく、ときには生命にかかわります。日本における水痘の罹患者は、毎年120〜150万人にのぼると推測されます。その中で約4000人が入院治療を要し、約20人が死亡しています。水痘に一度かかると二度かかることはまずありませんが、ウイルス自体は神経節に感染し続け、免疫能が低下した時や高齢になった時に帯状疱疹として再発症します。

 両ワクチンともに二回接種が有効です。おたふくかぜワクチンは、1歳の誕生日と就学前(MRワクチンと同じ)、水痘ワクチンは、1歳の誕生日とその4〜12ヶ月後が推奨されます。 

 予防接種は、接種を受けた本人が感染症から守られる(個人免疫効果)だけでなく、ある程度の接種率(90%以上)が達成されると、国全体の流行が鎮静化し国民全体の罹患率が低下するという素晴らしい効果があります(集団免疫効果)。保育園・幼稚園・学校での流行を根絶し、子どもたちが安心して通える環境を作りたいものです。また、免疫不全のために接種できない人、接種年齢に達していない赤ちゃんたちを守るためにも、集団免疫効果は大切です。該当年齢の子どもをお持ちの方は、接種をぜひご考慮ください。特に水痘ワクチンについて、定期接種化されるまで接種を控えることは得策とはいえません。ワクチン未接種の方は、最低限1回、有料であっても早めに接種することをお勧めいたします。

2013年10月21日

RSウイルス感染症 ~ 乳幼児にとって厄介な病気 ~

 RSウイルス(RSV)の時季外れの流行が話題になっています。例年、RSVの流行は10~11月に始まり、翌年3~4月に終息します。しかし今年は真夏に流行が始まりました。当院でも、8月から感染者が増加しています。インフルエンザほどには名が知られていませんが、実はインフルエンザよりも厄介なRSVについて、詳しく解説いたします。

2013年9月16日

母乳と薬 ~ 多くの薬は授乳中でも服用可能 ~

 授乳中のお母さんから、薬を飲んでよいかどうか尋ねられることがあります。授乳を中止せざるを得ないのは、一部の特別な薬だけです。多くの薬は安全に飲むことができます。ご質問いただければ、個々の薬について適切な情報をお伝えいたします。しかし現実には、病院や薬局で「薬が母乳中に出るので、服用している間は授乳を控えてください」と言われ、泣く泣く授乳をやめるケースがあります。また、授乳を続けるために薬を飲まずに我慢して、病状を悪化させてしまうケースもあります。どちらも情報を伝える機会があれば、と残念に思います。

2013年6月23日

メタボリック症候群を予防しよう

 わが国の成人男性の約半分、成人女性の約五分の一が、メタボリック症候群といわれています。メタボリック症候群とは、「内臓脂肪型肥満」に加え、「高脂血症」「高血圧」「高血糖」のうち二つ以上を持つ状態をいいます。肥満、高脂血症、高血圧、高血糖はそれぞれ動脈硬化の危険因子ですが、これらが単独で存在するよりも、それぞれが軽度であっても重複して存在する方が危険である事実にもとづき、新しく確立された疾患概念です。動脈硬化による病変は、狭心症、心筋梗塞などの心疾患(日本人の死因第二位)と脳出血、脳梗塞などの脳血管疾患(第三位)の原因になります。

2013年6月19日

風疹の流行 ~ 予防接種を済ませよう~(第二報)

(第一報;2012年7月21日 掲載)(第二報;2013年6月19日 掲載)

 風疹の流行が続いています。昔は5~6年周期で流行していましたが、幼児を対象とした風疹ワクチンが定着して以来、平成16年を最後に大規模な流行はありませんでした。ところが、平成23年に東南アジアで大規模な流行が発生して日本にウイルスが持ち込まれて以来、平成24年に近畿地方で流行規模が大きくなり、平成25年に首都圏で急増し、今や日本全土に拡大する勢いです。平成25年の全国の患者数は、6月9日の時点で早くも1万人を突破しています。うち、神奈川県は1220人、大和保健所管内は39人です。患者の約80%が男性で、20代~40代の年齢層に多く見られます。本来子どもの病気であるはずの風疹が、なぜ成人男性を中心に流行しているのでしょうか。

2013年4月21日

声援と達成感とビールを求めて走る、走る

<今回は医学情報ではなくエッセイ(駄文)です>

 本日、かすみがうらマラソンに出場して、生まれて初めて42.195kmを走りました。未知の世界への冒険旅行でした。記録は4時間28分44秒。サブフォー(4時間未満)を狙ってスタートから飛ばしたのですが、30kmの先に大きな壁が立ちはだかっていて、そこからは脚が思うように動かなくなってしまいました。最後は気力だけで前に進みました。フルマラソンの厳しさ、難しさを痛感しました。でも今は、完走できたことに深い満足を感じています。

2013年4月9日

身長を伸ばすサプリメントは存在しない

 「身長を伸ばす効果がある」と謳うサプリメントが新聞や雑誌やインターネットで宣伝されています。しかし、医学的に有効性が証明されたサプリメントは一つとして存在しません。皆様が誇大広告に惑わされることがないように、日本小児内分泌学会は以下の声明文を発表しました。ご参考になれば幸いです。

2013年3月14日

PM2.5の正体に迫る

 中国で発生した微小粒子状物質(PM2.5)が日本に飛来し、環境汚染を引き起こしています。PM2.5とは、大気中に浮遊する直径2.5μm以下の小さな粒子のことです。その成分として、元素状炭素(黒いスス)、有機炭素、窒素化合物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、アンモニア、重金属など様々な物質が含まれています。その起源は、工場の排煙やディーゼル車の排気ガスなどの人工産物のほかに、土壌の粉塵や火山活動などの自然現象もあります。また、家庭内では喫煙やストーブなどから発生します。PM2.5は粒子のサイズが非常に小さいため(髪の毛の30分の1、スギ花粉の15分の1)、肺の奥深くまで入りやすく、喘息や気管支炎などの呼吸器疾患を引き起こす可能性があります。さらに、肺がんや循環器疾患の誘因にもなります。