2013年10月21日

RSウイルス感染症 ~ 乳幼児にとって厄介な病気 ~

 RSウイルス(RSV)の時季外れの流行が話題になっています。例年、RSVの流行は10~11月に始まり、翌年3~4月に終息します。しかし今年は真夏に流行が始まりました。当院でも、8月から感染者が増加しています。インフルエンザほどには名が知られていませんが、実はインフルエンザよりも厄介なRSVについて、詳しく解説いたします。

 インフルエンザがあまり流行しない年はあっても、RSVが流行しない年は無いといわれるほど、RSVは毎年必ず流行します。乳児(1歳未満児)の三分の二は、初めての冬に感染します。母体からの免疫ではRSVを防ぐことができず、生まれたばかりの赤ちゃんも感染します。初めての冬に感染しなかった残りの三分の一も、次の冬には感染します。したがって、ほぼ100%の子どもが、2歳までに一度はRSVにかかることになります。しかも終生免疫が成立しないため、繰り返し何度も感染します。ただし、再感染のたびに症状は軽くなる傾向にあります。

 RSVに感染すると、発熱、鼻水、咳、喘鳴などの呼吸器症状が現れます。年長児は上気道炎(普通のかぜ)で済むことがほとんどですが、年齢が小さいほど下気道炎(気管支炎、肺炎など)に進展する危険性が増します。初めての感染時に下気道炎に至る頻度は約30%です。とくに、生後6ヶ月未満の乳児や心肺に基礎疾患を持つ乳幼児は重症化しやすく、ゼーゼーと苦しそうな息づかいや激しい咳き込みが始まったら要注意です。息をするたびに鼻の穴が広がったり胸が強くへこんだりする、ミルクをほとんど飲めない、ときどき息を止める、顔色が悪くぐったりしている、など呼吸不全の徴候が現れたら早急に医療機関に受診してください。重症化する頻度は1~3%で、毎年約2万人が入院治療を受けています。また、重いRSV感染症にかかった子どもの15~40%は、気道過敏性(かぜを引くとゼーゼーしやすい性質)が数年間続きます。喘息との異同は明らかにされていませんが、長期にわたる経過観察が必要です。

 RSVの侵入経路は目と鼻と口です。感染した人の鼻水や唾液からうつるので、かぜをひいている人(特に年長のきょうだい)は赤ちゃんにできるだけ近づかないこと、やむをえず近づいたり触れたりする場合はマスクを着用し手洗いすることが大切です。手洗いは石けんと流水で十分ですが、アルコール消毒を加えるとなお良いです。家族内で徹底して行ってください。また、器物の扱いに注意が必要です。感染者の鼻水が器物に付着し(RSVは数時間生存します)、それを触れることでRSVが手に移り、その手で目や鼻をこすると感染が成立します。

 RSVに対して、残念ながら、ワクチンも特効薬も存在しません。気道分泌物(鼻水、喀痰)を取り除いたり、去痰薬を内服したり、適切な体位や環境設定を行うなど、対症療法(症状を緩和する治療)が基本になります。当院は、適正な小児医学にもとづく治療に積極的に取り組んでいます。多くの子どもたちは外来通院を1~2週間続けていただくことで治癒しますが、病状によっては病院に紹介し入院治療を考慮する場合もありますことをご理解ください。

 RSVに対するワクチンはありませんが、シナジスという予防薬はあります。月1回の筋肉注射です。重症化を防ぎ入院率を下げることが証明されています。ただし、早期産児、心肺に基礎疾患を持つ乳幼児など、投与対象が限られています。残念ながら、すべての乳幼児に用いることができる薬ではありません。