風疹の流行が続いています。昔は5~6年周期で流行していましたが、幼児を対象とした風疹ワクチンが定着して以来、平成16年を最後に大規模な流行はありませんでした。ところが、平成23年に東南アジアで大規模な流行が発生して日本にウイルスが持ち込まれて以来、平成24年に近畿地方で流行規模が大きくなり、平成25年に首都圏で急増し、今や日本全土に拡大する勢いです。平成25年の全国の患者数は、6月9日の時点で早くも1万人を突破しています。うち、神奈川県は1220人、大和保健所管内は39人です。患者の約80%が男性で、20代~40代の年齢層に多く見られます。本来子どもの病気であるはずの風疹が、なぜ成人男性を中心に流行しているのでしょうか。
わが国で、風疹ワクチンは昭和51年まで接種が行われていませんでした。昭和52年に中学生女子を対象に集団接種が始まりましたが、男子を対象外としたため、流行を阻止することはできませんでした。平成7年に対象が1歳以降の男女に切り替えられた後、ようやく大規模な流行はなくなりましたが、局地的な小流行は今も時折みられています。以上の経緯が何を意味するかというと、35歳以上の男性はワクチン接種の機会が与えられず、風疹に対する免疫をほとんど持っていないということです。さらに、20代~30代前半の男性もワクチンの接種率が低かったため、免疫はやはり不十分な状態です。したがって、風疹の流行の主体は20代以上の男性です。大きな問題は、その流行が妊娠・出産の機会が多い10代後半から40代までの女性に波及していることです。一方、麻疹・風疹(MR)ワクチンを2回接種している小児の間では、風疹はほとんど見られていません。
風疹の症状は、年少児ではわりと軽く済みます。「三日はしか」の異名どおり、発熱と発疹が約3日間続いた後、自然に治ります。症状がないまま免疫ができる不顕性感染も約20%にあります。ただし、脳炎や血小板減少性紫斑病を数千人に一人の頻度で合併するので、やはり怖い病気です。年長児や成人が風疹にかかると、発熱や発疹の期間が長引いたり、高熱や関節痛を生じたりして、症状が重くなります。しかし、風疹が真に恐ろしいのは、免疫不十分な妊娠初期の女性がこれに罹った時です。お腹の中の胎児が風疹に感染すると、先天性心疾患、難聴、白内障を発症する可能性があります。これを先天性風疹症候群(CRS)といいます。CRSを発症する確率は妊娠12週までが最も高く、その幅は25~90%と見積もられています。わが国のCRSの患者数は、平成16年の流行時に10人が報告されましたが、以後は平成18年の2人、平成21年の2人にとどまりました。ところが、平成24年10月から本日に至るまでの大流行で、11人の赤ちゃんがCRSに罹患しています。緊急事態です。
風疹ワクチンの最大の目的は、先天性風疹症候群(CRS)の発生を防止することにあります。妊婦を風疹から守るために、定期接種の年齢に該当する子ども(1歳と就学前1年間の計二回)はもちろんのこと、妊婦の周辺にいる人たち(特にワクチン未接種の夫や同居家族)は、ワクチンを積極的に接種していただきたいです。接種を受けた人から、風疹ワクチンのウイルスが他人に広がる心配はまずありません。風疹ワクチンを接種することは、自分自身を風疹から守り、家族への感染を防ぎ、生まれてくる赤ちゃんをCRSから守ります。さらに、多くの人がワクチンを接種することで風疹自体の流行が無くなり、社会全体が守られることにもつながります。なお、妊婦は風疹ワクチンを接種できませんのでご注意ください。
<追記>
大和市は2013年4月26日から9月30日までの間、風疹ワクチンまたはMRワクチンの接種費用の全額助成を行っています。対象は、大和市在住の19歳以上で、① 妊娠を希望する女性、② 妊娠している女性の夫です。助成の対象には入っていませんが、夫以外の同居家族にも接種をお勧めします。妊娠中の女性は風疹ワクチンを受けることができません。風疹および先天性風疹症候群(CRS)を防ぐ唯一の手段は予防接種です。免疫のある人がワクチンを受けても副反応・過剰反応の問題はありませんので、ご自身が予防接種を受けたかどうか分からない場合、あるいは過去に風疹に罹ったかもしれないがはっきりしない場合、
ワクチンを受けても構いません。むしろ積極的に受けてください。風疹に罹ったと思い込んでいた人の約半数が、実は風疹でなかったという研究報告もあります。
今回の流行では、夫から感染したと思われる妊婦の風疹とCRSの赤ちゃんが複数例、報告されています。わが子にハンディキャップを負わせないために、ワクチンの接種を考えていただきたいと思います