2022年1月1日

新型コロナウイルス感染症の飲み薬 国内初承認

 新型コロナウイルス感染症の飲み薬(モルヌピラビル。商品名 ラゲブリオ。メルク社)が20211224日に国内で正式承認されました。本剤はRNAポリメラーゼ阻害薬として、細胞内に侵入した新型コロナウイルスの増殖を抑える作用を有します。海外での臨床試験では、入院や死亡のリスクを約30%低下させる効果が確認されました。30%というと何となく微妙な数字に感じられるかもしれませんが、死亡例に限ると、全対象者1433人のうちモルヌピラビル群で1人(0.1%)、プラセボ(偽薬)群で9人(1.3%)であり、それなりに良好な成績と言えます。

 モルヌピラビルの適応は、発症から5日以内の軽症〜中等症の患者のうち、18歳以上で、重症化リスクのある人です。ただし妊娠中の女性への使用は認められていません。日本感染症学会が発表したガイドラインによると、重症化リスク因子とは、61歳以上、活動性のがん、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、高度肥満、重篤な心疾患、糖尿病、ダウン症候群、脳神経疾患、重度の肝疾患、コントロール不良のエイズとされています。本剤は安定的な入手が可能になるまでの間、一般流通は行われず、厚生労働省が所有した上で、登録された医療機関からの依頼にもとづき無償で譲渡されることになっています。当院は小児科であるため、本剤を処方できる医療機関としては登録されていません。ご了承のほどをお願い申し上げます。


 モルヌピラビル以外の新型コロナウイルス感染症の飲み薬として、ニルマトレビル・リトナビル(商品名 パクスロビド。ファイザー社)があります。本剤はプロテアーゼ阻害薬として、細胞内に侵入した新型コロナウイルスの増殖を抑える作用を有します。海外での臨床試験では、入院や死亡のリスクを約89%低下させる効果が認められました。モルヌピラビルよりも格段に高い数字です。ニルマトレビル・リトナビルは、20211222日に米国で緊急使用許可が出されました。適応は、発症から5日以内の軽症〜中等症の患者のうち、12歳以上かつ体重40kg以上で、重症化リスクのある人です。日本政府は200万人分の供給を受けることでファイザー社と基本合意しており、国内での使用申請を準備しています。


 ただ、モルヌピラビルにしてもニルマトレビル・リトナビルにしても、安全性のデータがまだ十分に蓄積されていないこと、新型コロナウイルスに新たな変異(耐性株)を引き起こす可能性があることなど、懸念材料も残されています。今後の最新情報に注意を払う必要があります。ニルマトレビル・リトナビルは12歳以上が適応ですので、正式承認されたら当院も登録医療機関に手あげする方針ですが、評価がおおむね定まるまでの間は待つことになるかもしれません。


 その他、日本の塩野義製薬もプロテアーゼ阻害薬の最終段階の治験中であり、近々承認申請を出すといわれています。これらの飲み薬はすべて細胞内で働くため、新型コロナウイルスが細胞に侵入するためのスパイク蛋白質に変異を有していても(点滴や注射で投与する抗体医薬品やワクチンの効果を減弱させます)、その影響を受けにくいと考えられています。臨床試験では、オミクロン株への有効性も確認できているようです。


 新型コロナウイルス感染症に対して、ワクチンで予防し、飲み薬で治療する時代がすぐ目の前に来ました。新型コロナウイルスとの闘いに出口が見えてきた気がします。今後、両者が臨床の最前線で広く使われるようになることを期待しています。