新型コロナワクチンの接種は世界185ヶ国・地域で始まっています。世界全体の累計接種回数は、4月22日までに9億5千万回を超えました。すでに国民の半数以上が接種を終えた英国やイスラエルでは、感染者数が急減しています。
英国は昨年12月、日米EUに先駆けてワクチン接種を開始しました。今年4月に50歳以上への1回接種を完了しています。ワクチンを1回接種するだけで感染リスクを7割以上低減できるデータが示されました。その後も2回目の接種が着々と進められていて、国民の約半数が少なくとも1回の接種を終えています。1月上旬に5万人を越えていた1日あたり感染者数は約2500人に減りました。1月下旬に1000人以上だった1日あたり死者数は約30人に減りました。また、イスラエルは今年4月に国民の過半数が2回接種を完了しました。世界最速ペースです。1月に1万人を越えていた1日あたり感染者数は100人以下に減っています。そして4月22日、約10ヶ月ぶりに1日あたり死者数がゼロになりました。これらを受けて政府は、屋外でのマスク着用義務を解除し学校を全面的に再開しました。これらの国々では、新型コロナウイルス感染症の拡大前の日常風景が徐々に戻りつつあります。
一方、約3割の国民がワクチン2回接種を終えた南米チリでは事情が異なります。接種率が高い割には、感染者数が減らないどころか過去最多水準で推移しています。有効率の低い(54%)中国製のワクチンを主に使用したことに加え、規制緩和を急ぎすぎたことが原因と考えられています。 [註:日米EUで主に用いられているファイザー製ワクチンの有効率は95%です。]
日本では、4月22日までに少なくとも1回接種した人は約166万人で、全人口に対する接種率は1.3%です。先進国では最低レベルの数字です。接種が進まない理由は、欧米よりも2ヶ月遅れたワクチンの承認と、それに伴うワクチンの供給不足です。国産ワクチンの開発が遅れていることも大きな要因です。日本のワクチン行政の貧困が非常時に露呈してしまったといえます。
現在の接種対象は医療従事者と65歳以上の高齢者に限られていますが、いずれに対してもワクチンの供給が著しく遅れています。厚生労働省は、状況に応じて高齢者の接種完了を待たずに基礎疾患保有者や60〜64歳の人への接種を進める、また、9月末までに16歳以上の全員分のワクチンを調達する、との方針を示しています。しかしワクチンが滞りなく供給されるかどうか、いまだ定かではありません。政治力を強く発揮して、ワクチンを確保してもらいたいものです。
ワクチンを接種したからといって、新型コロナウイルス感染症を直ちに制圧できるわけではありません。4月12日、ワクチン2回接種後に新型コロナウイルス陽性と判定された事例が報告されました(濃厚接触者として検査されたもので、無症状でした)。接種により感染のリスクを大幅に低減できますが、ゼロになるわけではありません。接種後も引き続き、感染防止対策は必要です。さらに、ワクチンによる免疫が短期間で減衰する可能性、ワクチンの効きにくい変異株が広がる可能性など、良からぬ事態も想定しておかなければなりません。しかしワクチンを接種して感染拡大を抑えることは、変異株の発生を抑えることにつながりますし、集団免疫効果を期待することもできます。集団免疫とは、多くの人が免疫を持つことで感染が広がりにくくなる現象です。新型コロナウイルス感染症に関しては、人口の70%を超える人がワクチンを接種すると、集団免疫が成立すると試算されています。自分を守るだけでなく、周囲の人たちも守るためにもワクチン接種は大切です。ワクチンの早期供給が待たれます。