サプリメントは、健康の保持や増進を目的とする補助食品のひとつで、特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品と定義されます。昨今の健康ブームの影響を受けて、多種多様なサプリメントが世の中に出回っています。では、子どもにサプリメントは必要でしょうか? 結論を最初に言いますと、日本に住んでいる健康な子どもで、十分量の食事を摂っていれば、必要な栄養素はすべて食事でまかなえます。サプリメントは基本的に必要ないと思います。「今どきの野菜は栄養が少ない」などの不安を煽る文言に科学的な根拠はほとんどありません。
サプリメントには幾つかの問題点があります。第一に、特定成分を濃縮した製品では、食品が本来もつ「嗜好性や体積」が失われるため、過剰に摂取する危険があります。米国で行われた調査で、サプリメント使用者に、鉄、亜鉛、銅、セレン、葉酸、ビタミンA、ビタミンC等の過剰摂取を生じる傾向が指摘されました。第二に、ハーブ類には生理活性を有するものが多く、様々な副作用が起こりえます。たとえば西洋オトギリ草は、医薬品との相互作用により薬効の増強や減弱を起こすことがあります。甘草は体内の鉱質コルチコイドの作用を増強させ、むくみや筋力低下を誘発することがあります。ミネラル類の多くにも医薬品との相互作用があります。「自然なもの」は「安全で副作用がない」との思い込みは禁物です。第三に、小児における安全性が確実に保証された製品はほとんどありません。効果が科学的に証明された製品もほとんどありません。たとえば「身長を伸ばす効果があるサプリメント」に関して、日本小児内分泌学会は明確にその効果を否定しています(http://jspe.umin.jp/public/kenkai.html)。
「健康かつ十分量の食事を摂っていれば」の注釈を先に述べましたが、実は、乳幼児で不足が懸念される栄養成分があります。鉄とビタミンDです。生後6ヶ月を過ぎると、母乳中の鉄分は次第に減少します。この時期に離乳食が順調に進まない乳児は、鉄の不足による貧血を生じることがあります(http://tamai-kids.blogspot.com/2020/03/blog-post.html)。貧血に対して鉄剤の内服が有効ですが、自己判断で鉄剤のサプリメントを「予防的に」与えることは危険ですので(鉄は不足のみならず過剰でも健康を損ないます)、医師に必ずご相談ください。ビタミンDの不足による、くる病にも注意が必要です。母乳栄養児で離乳食が順調に進まず日光照射が極端に少ない時に生じる危険があります(http://tamai-kids.blogspot.com/2015/05/blog-post_20.html)。ただしビタミンDの過剰も健康を害するので、自己判断でビタミンDのサプリメントを与えることはせず、医師にご相談ください。
わが子にサプリメントを与えるかどうか迷っておられる親御さんは、「子どもの健康増進に積極的に関わりたい」という思いを強く持っておられると推察します。その切なる願望を理解しつつも、サプリメントの有効性と安全性の問題について警告することが小児科医の役割です。子育てにおいて、サプリメントよりも大切なものは「食育」です。親子で一緒に食への理解を深め、より良い食習慣を身につけていただきたいです。当院は栄養士による栄養相談を月二回行っています。ご相談をお待ちしています。