[1] マスクの効果
インフルエンザなどの呼吸器感染症は「発症した後から周囲に感染させる」ため、感染した人だけがマスクを着用すれば十分でした。しかし新型コロナウイルスの感染力は発症3日前から5日後までが最も強く、「発症前の無症状の時期から周囲に感染させる」ため、すべての人がマスクを着用することが理にかなっています。健康そうに見えても、「自分はウイルスを保有しているかもしれない、他人にうつすかもしれない」と考えて慎重に行動していただきたいと思います。
ウイルスを出す側と浴びる側のマネキンにマスクを着用させる実験があります。どちらかがマスクを着用するとウイルス量が50%減少し、双方がマスクを着用すると70%減少するという結果が得られました。実験に用いられたマスクは医療用のサージカルマスクですが、市販のマスクでも効果に遜色はなさそうです。ただ実験の数値で示されるように、マスクで100%の予防はできません。手洗い、三密の回避、体調管理など、複数の対策を並行して行うことが肝要です。
マスク着用中は、鼻を出さない、隙間をあけない、無駄に触れない、などの正しい使い方を心がけましょう。マスクの表面はウイルスで汚染されているかもしれず、マスクに触れた手指を口や鼻に入れてはいけません。外出時、マスクの他にアルコール手指消毒薬の携行をお勧めします。なお、周囲の人たちとの距離が十分に保たれている屋外では、マスクを外しても問題ありません。
[2] ワクチンの効果
新型コロナワクチンの接種は世界20ヶ国ですでに始まっています。1千万人以上の人が接種を受けました。日本では2月下旬の接種開始を目指して準備が進められています。大和市でも市役所と医師会の間で具体的な手順に関する協議が始まっています。
日本で最初に導入される予定のファイザー製ワクチンは、有効率95%という素晴らしい効果を有します。次いで導入予定のモデルナ製は94%、アストラゼネカ製は70%です。いずれも厳正な条件下で行われた臨床試験の成績であり、科学的な検証が確実になされた信頼度の高い数値です。呼吸器感染症に対するワクチンの有効率は一般に低いのですが(インフルエンザワクチンは50%前後)、新型コロナワクチンの有効率はその「常識」を覆す高さといえます。
気になる副反応ですが、接種直後に強いアレルギー反応(アナフィラキシーショック)を示す事例が、他のワクチンよりも多いようです。一般のワクチンにおけるアナフィラキシーの頻度は100万接種に1回ですが、新型コロナワクチンはその10倍近くあるかもしれません。アナフィラキシーの多くは接種30分以内に起こるため、注射後しばらく観察時間をおくこと、疑いがある場合は直ちにエピネフリンを注射することで対応できます。過去にワクチンや薬剤でアナフィラキシーショックを経験した人は注意が必要です。その他、注射部位の発赤や疼痛、全身の倦怠感などが報告されていますが、ワクチンの利益を否定するほどの副反応ではありません。
現在、接種率が最も高い国はイスラエルの30%です。同国は「世界初の集団免疫」を目指していて、その成否が注目されます。新型コロナウイルスの流行を抑えるために、全人口の60〜70%が免疫抗体を保有することが必要です。接種するか否かは個々人が判断することになりますが、集団免疫を達成するために(自分だけでなく周囲の人を守るために)、できるだけ多くの人に接種していただくことを筆者は望んでいます。ワクチン接種後にいきなり元の生活に戻ることは難しいかもしれませんが、感染リスクの高い人を守れるようになるだけでも状況は劇的に改善するはずです。
追記(1月27日): (1) イスラエルでファイザー製ワクチンを2回接種した128,600人のうち、その後の検査で新型コロナ陽性と判定された人は20人(0.01%)にとどまっています。陽性者はいずれも軽症で、入院した人はいません。あくまで初期データに過ぎませんが、今後の動向に期待が持てる数値です。 (2) 米国において、ワクチン接種後にアナフィラキシーを起こした人は、ファイザー製で190万人中21人、モデルナ製で400万人中10人と公表されました。その後の経過が分かっている人については、全例が回復しています。アナフィラキシーは接種後15〜30分以内に起こることが多く、早期に見つけて適切に対処すれば回復します。万一に備えた体制をしっかり作っておけば、深刻な事態に至ることはまずありません。ただし過去にアナフィラキシーなど強いアレルギー反応を経験している人は、接種するか否かを慎重に判断することが必要でしょう。