2021年1月1日

新型コロナウイルスワクチンへの期待

 新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない中、希望の持てる話題を提供したいと思います。新型コロナウイルスワクチン(以下、ワクチンと略)の最新情報です。

 日本で薬事承認申請中の米国ファイザー社製ワクチンの第三相臨床試験の成績が学術誌に掲載されました(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2034577)。18歳以上の約43千人の被験者を偽薬(プラセボ)投与群とワクチン投与群の2つに分け、約100日間の経過を追ったところ、新型コロナウイルス感染症に罹患した人は、偽薬投与群(ワクチンを接種しなかった群)で162人、ワクチン投与群で8人という結果でした。しかも、偽薬投与群では日数の経過とともに罹患者が直線的に増えたのに対し、ワクチン投与群では接種後2週間から先は罹患者がほとんど出ませんでした。ワクチンを接種することにより発症リスクを95%減らすという結論になります。「新型コロナウイルスに接した(であろう)人のうち、これまで10人だった発症者が1人以下になる」と言い換えることもできます。学術的な検証がしっかり為された説得力のあるデータです。また、米国モデルナ社製ワクチンも同様の臨床試験により、有効率94%の成績を出しています。

 これらの結果を受けて、米国では1214日にワクチンの緊急使用が許可され、すでに200万人以上が第1回の接種を受けました(接種は12回)。日本では国内で実施中の臨床試験のデータを踏まえ、早ければ2月中に薬事承認の可否が決まる見通しです。ワクチン接種が始まることにより、直ちに元の生活に戻ることは無理にしても、徐々に元の生活に近づける希望が持てることになります。新型コロナウイルスとの闘いは、ようやく先の見える展開になってきたと言えそうです。

 ワクチンには有効性だけでなく高い安全性が求められます。ファイザー社の第三相臨床試験では、疲労感59%、頭痛52%、発熱(38℃以上)16%などがありましたが、重い副反応は報告されませんでした。疲労感、頭痛、発熱、筋肉痛などは、ワクチンを接種すれば一定の確率で生じる、想定内の事象です。ただ、欧米で接種後に激しいアレルギー反応(アナフィラキシーなど)を示した事例が報告されているため、接種後の一定時間(数十分間)は経過を観察し、直ちに治療できる態勢を整えておくことが必要です。過去にワクチンでアナフィラキシーを起こした人は、接種を控える方がよいでしょう。日本で接種が始まるまでに欧米で1千万人以上が接種済みと予想されますので、他国の成果をいただく形にはなりますが、安全性の見極めはできそうに思います。新型コロナウイルスワクチンで懸念される別の問題点は、長期的な予後について何も分かっていないことです。効果がどのくらい続くのか、相当の年数が経ってからの副反応はないのか、などは未解決であり、今後も検討を続けていかなくてはなりません。

 新型コロナウイルスワクチンに対して大きな期待と少々の不安があります。接種に際して、冷静な判断と選択が各人に求められます。ちなみに、筆者は医療現場の最前線に立つ身として、どれだけ対策を講じても感染するリスクが一般の人よりも高いといえるので、ワクチンを積極的に受けるつもりです。ワクチンを接種することは、自分だけでなく、当院に来られる親子、自分の友人や家族らを感染から守ることにつながると考えています。