(1) 病原体診断にこだわりすぎる?
「ノロウイルスかどうか検査してもらうこと」「RSウイルスが陰性になるまで登園不可」「家族の誰かがインフルエンザにかかったら休むこと」などの要求を見聞きすることがあります。ノロウイルスでなければ、下痢や嘔吐があっても登園してもいいのでしょうか? ノロウイルスも他のウイルスも、治療法と感染拡大予防策は同じです。ノロウイルスだけを特別視する理由はありません。RSウイルスは、乳幼児がかかると重い肺炎になることがある一方で、年長児や成人がかかっても軽い咳や鼻水で済みます。不顕性感染もあります。もしRSウイルスを完璧に排除しようとするならば、全ての園児や職員に対して毎朝RSウイルスを検査し、陰性者だけ門を通れるようにしなければなりません。もちろん無理な話です。インフルエンザにも軽症者や不顕性感染があり、RSウイルスと事情は同じです。病原体診断できる感染症だけを極度に恐れ、それだけを排除しようとする施策は、「木を見て森を見ず」に例えられます。
(2) 治癒証明書を求めすぎる?
麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、百日咳、咽頭結膜熱、結核などの感染症は、医師による治癒証明書が必要です。しかし発症後に登園を禁じ治癒後に証明書を提出しても、いったん生じた流行を止めることは困難です。感染の拡大は主に病初期(発症前の潜伏期や発症直後)に起こります。回復期に厳格な隔離を続けても効果は乏しく、治癒証明書の意義は些少です。咽頭結膜熱を除く上記の感染症は、ワクチンによる予防が基本です。ワクチンをもれなく接種しましょう。インフルエンザについては、コラム「インフルエンザ診療 ここが問題!」に記したとおり、治癒証明書は不要です。手足口病、ヘルパンギーナの治癒証明書は不要です。アデノウイルスは、咽頭結膜熱を発症した場合のみ治癒証明書が必要で、咽頭・扁桃炎、胃腸炎などの治癒証明書は不要です。溶連菌感染症は、抗菌薬を服用後24時間で症状が軽快していれば、治癒証明書は不要です。医学的な意味づけの乏しい治癒証明書を求めることは、保護者と園児に余計な身体的・時間的・金銭的負担を課すことになります。
(3) 数字(検査値)にこだわりすぎる?
感染症ではありませんが、食物アレルギーについてひとこと述べます。食物アレルギーの診断根拠は、食物負荷試験陽性、明らかな症状の既往、検査(IgE抗体価)陽性の順です。検査には偽陽性や偽陰性があり、その値は参考程度に過ぎません。一部の幼稚園・保育所は検査値を示さないと除去食を出さない(あるいは解除しない)方針ですが、大きな誤りです。検査を医師や保護者に求めないことが「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」に記されています。
多くの幼稚園・保育所は、子どもたちの笑顔と健康のために献身的な努力をされています。それだけに医学的な妥当性を欠く対応を時折(ほんの時折ですが)見かけることは残念であり、医療機関(とくに園医)と幼稚園・保育所の連携が足りていないと感じます。緊密な意見交換を行うことで、保護者と園児に不利益が及ばないように気をつけたいものです。