2020年2月16日

新型コロナウイルス感染症への対策(第4報)

 新型コロナウイルス感染症が新たな局面に入りました。これまでの感染者は渡航歴や接触歴を明確に把握できていましたが、2月13日以降、誰からウイルスをうつされたか分からない(感染経路を追えない)事例の報告が相次いでいます。米国疾病対策センター(CDC)は、「この疾患の範囲は当初の想定よりもはるかに広い。無症状の人からも感染する可能性がある」とコメントしました。水際対策の段階はすでに終わっており、今後は「市中感染」としての拡大をどれだけ食い止めるか、重症化しそうな人をどれだけ適切に治療できるか、に焦点が移ると思われます。2月15日時点の最新情報をお伝えいたします。

 新型コロナウイルスへの対応は、行政レベル、医療レベル、個人レベルに分けられますが、個人レベルには何も変更点はありません。これまでどおりの対策が有用です。新型コロナウイルスの感染様式は、咳やくしゃみが直接体内に入る「飛沫感染」とウイルスのついたものに触れた手で口や鼻や目の粘膜に触れる「接触感染」です。手洗いと咳エチケットと体調管理を徹底し、「ウイルスをもらわない、ウイルスを広げない」意識を持つことが大切です。手洗いと咳エチケットの実践法については、前編(第3報)をご参照ください。この時季、新型コロナウイルスとは関係なく通常の風邪やインフルエンザや花粉症などで咳やくしゃみが出る人が少なくありません。咳やくしゃみがある場合、マスク着用と手洗いを怠らないようにしましょう。日本中のすべての人が「感染を広げない」意識を共有することが、何よりも重要なことと思います。

 新型コロナウイルスに感染すると、通常の風邪に比べて症状が長引く傾向にあります。発熱、咳、咽頭痛、倦怠感などが約1週間続き、そのまま治る人と肺炎に移行する人がいます。中でも高齢の方や基礎疾患を持つ方は、重症化のリスクがあるため油断できません。風邪症状が数日以上たっても治らないか次第に重くなってきたと感じたら、中国・武漢市への訪問歴の有無などにかかわらず、地域の保健所に設置された「帰国者・接触者相談センター」に電話で問い合わせてください。そこで担当者が聞き取りを行い、感染が疑われると判断した場合は「帰国者・接触者外来」を紹介される仕組みになっています。ただし、過度に恐れる必要はありません。世界保健機関(WHO)は、「全員が肺炎になるわけではなく、多くの人は症状が軽い」との見解を出しています。症状が軽くて安定していれば、その間は自宅で過ごす選択肢もあります。現時点で、新型コロナウイルスの検査対象は、渡航歴や接触歴がある人か、それらがなくても病状が重い人に限られています(検査の需要に対して供給体制がまったく追い付いていません。短時間でできる検査キットの開発に最低1ヶ月はかかると言われています)。インフルエンザと異なり、新型コロナウイルスに対して確立した治療法はありません。あるのは症状を和らげる対症療法だけです。自宅で静養する場合、家族とは別の部屋で休み、部屋の換気を良くして湿度を高めに保ち、タオルなどを共用しないことに留意しましょう。そして症状の悪化(高熱、呼吸困難など)がないかどうかをよく観察してください。

 新型コロナウイルス感染症の事例が成人に多く子どもに少ない理由は不明です。成人に比べて子どもの移動範囲が狭いからか? コロナウイルスに対する免疫を保有しているのか? などの推測が出されていますが、いずれも定かではありません。ただ、小さな子どもにも感染例は報告されていますので、今後の動向を注意深く見ていく必要はあります。

 新型コロナウイルス感染症の致死率について、正確な数値は不明です。現在のところ、感染拡大の中心になってきた武漢市で4%、中国全土で2%、その他の地域で0.4%と試算されています。中国で突出して高い理由は、おそらく十分な医療が提供できていないためと推測されます。同じコロナウイルス感染症で2003年に中国や東南アジアで流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)が9.6%でしたので、今回の新型コロナウイルスはSARSよりもだいぶ低いといえます。しかし仮に致死率が低くても、感染者数が今後多くなれば重症者数や死亡者数も増えますので、そのための医療体制をさらに充実させることが急務です。将来的には、重症者は入院治療、軽症者は外来と自宅療養という、医療の使い分けが必要になると予想されます。これは先に述べた、行政レベル、医療レベルの対応になります。

 感染症は心疾患やがんや糖尿病と異なり「誰でも罹患しうる」「原因(病原体)が目に見えない」という特徴があります。新型コロナウイルスの流行拡大が連日大きく報道され、不安を感じる人が多いでしょうが、このような時こそ理性的で冷静な対応が求められます。流言飛語に惑わされず、信頼できる公的機関の情報源をご利用ください。

 追記(2月16日): 2月15日、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客217名を対象にウイルス検査を行ったところ、67名の陽性者がいて、そのうちの38名が無症状でした。米国疾病対策センター(CDC)が「無症状の症例は多い」とコメントしましたが、それが実証された形です。無症状者が多いことは重症化率が低いという点で喜ばしいですが、感染拡大予防策が難しいという側面もあります。しかしだからといって、手洗いや咳エチケットが無意味というわけではありません。まずは自分たちができる予防策に努めてください。