第一波を通じて、小児におけるCOVID-19の特徴が明らかになりつつあります。今回のコラムでは、その概要を解説いたします。
[1] 小児の感染者数は少ない?
10歳未満児の感染者の割合は全体の1〜2%と非常に少ないです。ただし小児では無症状や軽症が多く、感染していても見逃されている可能性があります。いずれの特徴もインフルエンザと大きく異なります(インフルエンザはこの逆です)。小児のCOVID-19がなぜ少ないか、なぜ軽いか、理由はまだ分かっていません。米国の最新の論文によると、新型コロナウイルスの鼻粘膜細胞への侵入門戸であるACE2蛋白質が低年齢ほど作られにくいため、と推論されています。
[2] 小児は他人に感染させにくい?
幼稚園や学校が再開された後、流行が再び拡大しないかどうか気になるところですが、日本でも海外でも、学校や保育園・幼稚園における集団感染(クラスター)の事例はほとんど報告されていません。この点もインフルエンザと大きく異なります。したがって、学校や幼稚園を閉鎖しても、COVID-19の流行を阻止する効果は乏しいかもしれません。むしろ、閉じこもりによって子どもの心身の健康が乱されたり、子どもを預けられないために保護者の就業が制約されたり、損失の方が大きいように思えます。幼稚園・学校の再開により、小児と社会に活気が戻ることを期待したいです。
[3] 小児の感染者の多くは軽い?
日本と海外の報告は、「小児は感染しても無症状か軽症で終わることが多い」という見解で一致しています。その理由はまだ分かっていません。小児では上述のACE2蛋白質が少ないこと、小児は旧来のコロナウイルス(いわゆる風邪)に頻繁にかかるため新型コロナウイルスに対する免疫をある程度持っているかもしれないこと、小児は免疫反応の暴走で生じるサイトカインストームを起こすほど免疫系がまだ強くないこと、などが理由としてあげられています。
しかし小児でも呼吸不全をきたすなど、重症例の報告は稀にあります。特に1歳未満児と基礎疾患保有児は要注意です。また欧米を中心に、川崎病に似た症状を呈する事例が多く報告されています。これに対して日本川崎病学会は、「日本および近隣諸国では現時点で川崎病とCOVID-19との関係を積極的に示唆できる情報は得られていない」との声明を出しています。川崎病の発生に関する地域差が、遺伝素因の違いによるものか、それとも単に診断を免れているだけなのか、今後の動向を注視です。
[4] 小児が感染したときの治療は?
COVID-19の治療薬として、レムデシビル、ファビピラビル(アビガン)、ヒドロキシクロロキン(プラケニル)などが用いられます。どの薬剤も有効性や安全性のデータの蓄積が不十分で、特に小児では使用経験がほとんどありません。小児に使用する機会は重症例に限られます。
小児のCOVID-19のほとんどは軽症であることから、一般の風邪治療と同じく、安静・療養と対症療法が十分に有効です。大概は1週間のうちに快復します。大事なことは、呼吸不全や全身状態不良の徴候を見逃さないことです。息が苦しそう、顔色が悪い、ぐったりして動けない、などの症状があれば、躊躇せずに医療機関を受診してください。
[付記] 本コラムは日本小児科学会の記事「小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状」を参考にしました。
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20200520corona_igakutekikenchi.pdf
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20200520corona_igakutekikenchi.pdf