新型コロナウイルス感染症の法律上の分類が2023年5月8日、2類相当からインフルエンザ並みの5類に引き下げられます。ウイルスが変異を繰り返して弱毒化したこと、ワクチンの普及に加えて自然感染により免疫を持つ人が増えたこと、治療法が開発されてきたことなどが分類変更の背景にあります。ゼロコロナからウィズコロナへの方針転換といえましょう。
5類になる医療上のメリットは、すべての医療機関で発熱患者を診療できるようになることです。当院は「発熱外来」の時間帯を設けて発熱している子どもたちを診ていますが、5類に引き下げ後は今より気軽に受診できる体制に変えられるかどうかを検討中です。医療上のデメリットは、医療費の全額公費負担がなくなるかもしれないことです。国や自治体から補助が出る可能性はありますが、現在の「0円」ということはなさそうです。重症化率の高い高齢者や基礎疾患保有者には、医療制度上の特別措置(ワクチンの無料接種や医療費の減免)が継続されることを願っています。社会的には、緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置が発令されなくなります。イベントにおける観客数の制限が見直され、声出し応援も緩和されました。黙食が基本とされていた学校の給食時に、換気などをすれば会話も可能になりました。制約だらけの窮屈な生活から元の生活に戻ることを歓迎したいです。
気になるのがマスクの着用です。政府は2月10日、来月13日から屋内外を問わず原則としてマスクの着用を個人の判断に委ねる方針を発表しました。学校などでの教育現場では、4月1日から基本的に児童・生徒にマスク着用を求めないことになっています。卒業式については、4月以前であってもマスクを着用せずに出席することができます。ただし、医療機関の受診、高齢者施設の訪問、混雑した電車・バスに乗車する際は、マスクの着用が推奨されます。当院においても当分の間、発熱や咳などのかぜ症状がある時はマスクを着用してご来院いただくようにお願いしています。
マスクの着用に関して、今後は臨機応変な対応が求められます。新型コロナの流行状況、周囲の混雑の度合い、自分が感染した時の重症化リスク、家族に感染を広げた時のリスクなどを考慮し、適切に判断することが大切です。なかでも重症化リスクのある方々への配慮を忘れてはなりません。
子どものマスクについては、大人と異なる配慮も必要です。大人は相手がマスクをしていても表情や感情をそれなりに予測することができますが、子ども(とくに乳幼児)にはその能力がまだ備わっていません。発達の途上にある子どもにとって、相手の表情を見て気持ちを推し量る機会がマスクによって奪われることは由々しき問題です。幼稚園・保育園で、「マスクで顔の見分けがつかず人見知りしない子が増えた」「褒めても反応が薄い」「仲良しの友だちの素顔を見たことがない」といった心配の声が聞かれます。子どもが生きていく上で必要な能力の習得を妨げる措置は最小限に抑えなければなりません。筆者は、子どもたちがマスクをしなくてもよい社会の実現を待ち望んでいます。
一方で、心情的にマスクを外したくないと考える人に、脱マスクを強要することは避けなければなりません。判断は人それぞれで異なって当然です。マスクの着用を「すべきだ」「すべきでない」の二者択一で論じるのではなく、中間のグレイゾーンを認める寛容さが社会に求められるでしょう。