国立感染症研究所は、2025年3月23日までの1週間で、全国の医療機関から458人の百日咳が報告されたとの速報値を発表しました。今年に入ってからの累積数は4100人で、昨年1年間の4054人をすでに超えています。神奈川県では、2025年3月17日の時点で136人の報告があり、昨年1年間の48人をすでに超えています。主に学齢期(5〜14歳)の子どもに発生しています。
百日咳は、百日咳菌による呼吸器感染症です。生後6ヶ月未満の乳児が百日咳にかかると無呼吸発作、肺炎、脳症などによって生命が脅かされるため、ワクチンによる制圧が精力的に進められてきました。一時期は大幅に発生が減少した百日咳ですが、2005年前後から学齢期以降の感染者が増え始め、乳児への二次感染が懸念される事態に至っています。学齢期以降に百日咳に罹患しても軽症(咳が長引くなど)で済むことがほとんどですが、そのために診断が遅れてワクチン未接種児(主に生後2ヶ月未満)への感染源になり、重症化や死亡に至らしめる危険を生じます。乳児がかかる百日咳の多くは、親や兄姉からの家族内感染です。
学齢期以降に百日咳が増えている原因は、ワクチンで得られる免疫が数年間しか維持できないことにあります。百日咳菌に対する免疫抗体の保有率は、1歳前に頂点(90%)に達した後徐々に減少し、5〜6歳で最低(30%)に下がります。この時期に百日咳ワクチンの追加接種を行うことが、以後の感染を防止するうえで有用です。欧米では百日咳を含むワクチンを5〜6回接種する方式が普通ですが、日本では生後2〜4ヶ月の3回と1歳時の1回、計4回しか接種の機会がなく、就学前の接種は設定されていません。また、11歳以上13歳未満で定期接種する二種混合ワクチンに百日咳は含まれていません。
註;五種混合ワクチン = ジフテリア・破傷風・百日咳・不活化ポリオ・ヒブ(0〜1歳で定期接種)。三種混合ワクチン = ジフテリア・破傷風・百日咳(5〜6歳での任意接種が望まれる)。二種混合ワクチン = ジフテリア・破傷風(11〜12歳で定期接種)
2018年1月29日、日本で三種混合ワクチンが再販売され、接種対象年齢が生後2ヶ月〜全年齢に大きく広げられました(従来は生後3ヶ月〜7歳6ヶ月未満)。この措置を受けて当院は、就学前または学齢期の5回目接種をお勧めしてきました。日本小児科学会も同年8月1日、百日咳に対する免疫を維持するために、就学前に三種混合ワクチンの追加接種(任意)を推奨すると発表しました。また、11歳以上13歳未満の二種混合ワクチン(定期)を三種混合ワクチン(任意)に置き換えることができると発表しました。日本においてもようやく学齢期以降の百日咳の予防措置が動き出しました。
当院がお勧めするワクチン・スケジュールは以下のとおりです。赤ちゃんを百日咳から守るために、お兄ちゃん、お姉ちゃんへのワクチン接種をぜひご考慮ください。
(1) 就学前1年間に、麻疹・風疹(MR)ワクチン、おたふくかぜワクチン、三種混合ワクチンを同時接種する(別個に接種することも可能)。おたふくかぜワクチンと三種混合ワクチンは任意接種(有料)です。
(2) 就学前に追加接種の機会がなかった小学生は、11〜12歳時の二種混合ワクチンを三種混合ワクチンに置き換える。ただし、二種混合ワクチンは定期接種(無料)ですが、三種混合ワクチンは任意接種(有料)です。
(3) 11歳まで待てないか13歳を過ぎている場合、希望する時期にいつでも三種混合ワクチンを追加接種することができます。任意接種(有料)の扱いです。
【追記(2025年4月9日)】全国の医療機関から3月24〜30日に報告された患者数は、1週間の数としては過去最多の578人でした。今年3ヶ月間の累計は4771人になり、昨年1年間の4054人を超えています。乳児の重症例も報告されています。