2025年2月16日

小児科医の特性は「せっかち」?

 ある小児科専門誌に「小児科医は概してせっかちである」という内容のエッセイが掲載されています。果たして自分が小児科医の特性にどれだけ適合するか、マルバツをつけてみました。

    じっとしておらず、絶えず動き回っている → マル

    自分の話したいことを一気に話そうとする → マル

    相手の話がゆっくりだと、せかせかと相槌を打って話を急がせる → マル

    一度に二つ以上のことをしようとする → マル

    ゆっくり休養したり数時間なにもしないでいたりすると罪悪感を覚える → マル

すべて二重丸でした。まったくお説のとおりです。

 エッセイには「小児科外来では、泣き喚く子を前にして、若い母親から手短に要領よく訴えを聞き出すために、医師の方から積極的に話しかける。しかも泣き声に負けないように声が大きくなり、早口で次々に話しかけていく。せかせかと早く結論を知りたがる。このような診療態度を10年、20年と続けていくうちに、小児科医特有のパーソナリティが形作られていくのである」とも書かれています。これまた、まったくそのとおりです。

 ただ自分の特性をあらためて振り返ってみると、幼少時から一貫して、せっかちで落ち着きがなく粗忽でした。診療科目に小児科を選んだせいで後天的にせっかちになったわけではなさそうです。たとえば、年がら年中、生傷の絶えない子どもでした。前を見ずに突っ走って縁側に頭から激突したり、鉄条網をくぐり抜けようとして有刺鉄線に頬を引っかけたりして、そのたびに外科医のお世話になりました。額や頬に傷跡がしっかり残っています。また、小学校の授業にまったく参加できませんでした。教師の話を10分も聞くと飽きてしまい、あとは白日夢に耽っていました。教科書に落書きをしたり、連載漫画の続きを想像したり、放課後に何をして遊ぶかを考えたりして、授業時間の大半を過ごしました。暇を持て余していたのではなく、頭の中はそれなりに忙しく回転していたようです。小学五年時、塾を三ヶ月で辞めさせられました。授業をハナから理解しようとせず、友だちとお喋りばかりしていたので、「あなたがいると他の生徒の邪魔になる」と断じられました。これで面倒な塾に通わずに済むと喜びました。

 今の世なら、注意欠如・多動症(AD/HD)の診断名をもらうかもしれません。勉強が分からない、級友と諍いを起こす、誰からも褒められず怒られてばかり、などの不具合が次々に重なり、自己肯定感は常に地面すれすれの低空飛行を続けていました。転機が訪れたのは中学一年時です。今も恩師と仰ぐ三人の先生(国語、数学、社会)に巡り会えたことで、授業に参加する面白さと楽しさに目覚め、長い混迷期からようやく抜け出ることができました。「熱い」授業のもたらす効果は絶大でした。以後、好奇心を学問探求へのエネルギーに変え、自分なりに一生懸命に勉強し、まぐれも手伝って医学部に受かり、そして医者になりました。

 2004年に小児科クリニックを開業し、二年目に成育外来を土曜午後に開設し、AD/HDの子どもたちを診る機会が増えました。彼ら彼女らの悩み事を聞いていると、「うんうん、君の気持ち、よく分かるよ」と強い共感を覚えます。自分の体験が子どもたちの悩みを解決する一助になることを心から願っています。成育外来にはAD/HDの他にも、成長発達や行動や情緒に問題を抱える子どもたちが大勢訪れます。町の小児科医として、子どもたち、そして子育てにいそしむ家族の人たちを支援するために、これからも頑張っていきたいと思います。