2025年1月12日

ヒトメタニューモウイルス感染症

 ヒトメタニューモウイルス(hMPV)による感染症が中国で拡大していると報じられています。中国では今月末に春節(旧正月)に伴う人々の大移動があることから、日本など周辺国への影響が懸念されます。中国発ときくと新型コロナウイルスの再来!?と心配される向きもありますが、決してそうではありません。今回のコラムはhMPVについて解説いたします。

 hMPV2001年にオランダで発見されたウイルスです。日本でも多くみられます。小児の呼吸器感染症の510%、大人の24%がhMPVによると考えられています。従来は36月が流行のピークでしたが、新型コロナウイルスの出現以来、季節性が崩れています。

 hMPVは、咳やくしゃみで吐き出された飛沫を吸い込んだり(飛沫感染)、飛沫などで汚染されたものを触れたり(接触感染)することで感染します。潜伏期間は35日です。鼻・喉(のど)の上気道に侵入し、ときには気管・気管支・細気管支の下気道に拡がります。

 hMPVに感染すると、咳、鼻水、発熱などの上気道炎(かぜ症状)を生じます。年長児では軽症で済むことが多いですが、年少児(特に03歳児)では下気道炎(気管支炎、肺炎)を合併して重症化することがあります。発症から23日のうちに咳がひどくなり、粘稠な痰と鼻水が増え、呼気性喘鳴(息を吐く時にゼーゼーする)と息苦しさ(呼吸が速くなる、胸郭が大きく上がり下がりする)を生じます。その結果、15日間の高熱と1週間以上の咳が続きます。RSウイルス感染症の症状と似ており、外見上の区別が困難です。当院で使用している迅速診断キットは、hMPVRSウイルスを同時に調べられる仕組みになっています。

 母親からの移行免疫が効いているため、乳児期前半(6ヶ月未満児)の感染は少ないようです。生後6ヶ月以降に感染する子どもが徐々に増えて、2歳までに約半分、510歳までにほぼ全ての小児が感染します。一回の感染では十分な免疫抗体が得られないため、何回も感染します。しかし回数を重ねるたびに免疫が増強され、症状は軽くなる傾向にあります。

hMPV感染症に対する治療は、各症状を楽にするための対症療法です。去痰剤、抗炎症剤などが主力になります。水分と栄養をしっかり摂って、ゆっくり休みましょう。鼻水をこまめに吸い取る、咳き込んでいる時は縦抱きの姿勢をとる、部屋に湿気を与えるなどの対策も有効です。細菌の重複感染によって中耳炎や肺炎を併発した場合、抗菌薬が必要です。高熱が続いたり、呼吸状態が悪化したりしたら、もう一度早めに受診してください。

hMPVに有効なワクチンはありません。感染及びその拡大を防ぐには、手洗いの励行、マスクの着用など、飛沫感染および接触感染の対策が重要です。消毒液にはアルコールが有効です。新型コロナウイルスへの対策とほぼ同じと考えてよいと思われます。