花粉症は戦後に初めて報告された新しい病気です。それが今や、国民の25〜30%が罹る病気になってしまいました。子どもの花粉症も増えています。2008年に行われた全国アンケート調査では、スギ花粉症の有病率は、0〜4歳で1.1%、5〜9歳で13.7%、10〜19歳で31.4%でした。10年前の同じ調査では0〜4歳で1.7%、5〜9歳で7.2%、10〜19歳で19.7%でしたので、5歳以上で1.5〜2倍増加していることになります。
急激な増加の背景には、いくつかの原因があります。最も重要な原因は、昭和30年代に大規模に植林されたスギやヒノキが花粉を産生する樹齢に達し、花粉を大量に撒き散らしていることです。夏の温暖化傾向が、花粉量の増加に拍車をかけています。また、環境の変化も重要です。大気汚染物質、特にディーゼル排気ガスやディーゼル排出微粒子は、花粉に対するアレルギー反応を増強することが知られています。黄砂に含まれている二酸化ケイ素は、やはりアレルギー反応を増強します。タバコの煙に含まれる微粒子も同じく有害です。さらに、気密性の高い住宅環境、高蛋白・高脂肪の食生活などは、花粉症だけでなくアレルギー全般を起こしやすくする要因です。以上にあげた種々の事象が積み重なって、花粉症を増加させていると考えられます。
花粉症の症状は、子どもの日常生活に悪影響を及ぼします。鼻づまりのために夜間よく眠れないと、昼間に眠気を生じたり集中力が不足したりして、学習に支障をきたします。睡眠中に、いびきがひどい、寝苦しそうに何度も寝返りをうつ、呼吸が数秒間止まる、などが気になることはありませんか。また、落ち着きがない、眠そうにしている、学習への意欲が低下している、などと指摘されたことはありませんか。これらの症状は、「花粉症 → 鼻づまり→ 睡眠障害」の徴候かもしれません。小さな子どもは症状をうまく伝えられないので、周りの大人がこれらに気づいて治療を受けさせることが大切です。花粉症は決して放置してよい病気ではありません。
花粉症の治療法には、薬物療法と減感作療法があります。薬物療法には、抗ヒスタミン薬(内服、点眼)、ロイコトリエン拮抗薬(内服)、ステロイド薬(点鼻)があります。抗ヒスタミン薬の内服は薬物療法の中心に位置づけられますが、眠気や倦怠感をきたす場合があり注意が必要です。漢方薬(小青竜湯など)にはこれらの副作用がないため、抗ヒスタミン薬の内服が難しい子どもたちに重宝します。鼻づまりが重度の場合、ステロイド点鼻薬を併用します。最近のステロイド点鼻薬は改良が著しく、全身性の副作用は実際にはほぼ見られません。減感作療法(舌下免疫療法)は、スギ花粉に対する過敏性を解消させる、唯一の根治療法です。治療に3〜5年という長期間を要しますが、1年目から効果が現れることが多く、治療成績が良いため、当院は積極的に採用しています。対象年齢は5歳以上です。
最後に、花粉症が遺伝するかどうかについて。花粉症はアレルギー疾患の一つですので、「アレルギーになりやすい体質」が親から子へ遺伝する可能性はあります。しかし、実際に発症するかどうかは、環境要因(花粉への曝露、住・食環境など)に左右されます。家族内に花粉症の人がいても発症しないケースは少なくありません。