アデノウイルス感染症が本年9月以来、主に乳幼児の間で流行しています。過去10年間で最大規模です。今回のコラムでアデノウイルスについて解説いたします。
アデノウイルスには51の血清型があります。種類が多いため、様々な部位に感染し、様々な病型があり、一度のみならず二度、三度と感染します。いずれのウイルスも、便や飛沫や直接接触により感染します。コロナ禍の3年間、流行が抑えられていたことから、手洗いやマスクは感染防止に有効と考えられます。ウイルスを受け取ってから症状が現れるまでの潜伏期間は5〜7日です。
<呼吸器感染症> 主に3型と7型によります。小児の風邪の約10%を占めます。のどを赤く腫らし(特徴的な所見です)、4〜5日間の発熱を生じます。熱型の多くは、一日のうちに上がったり下がったりを繰り返す「弛張熱」です。発熱だけの場合もありますし、咳や鼻水、軟便を伴う場合もあります。鼻閉に伴い眼脂(めやに)が出ることもあります。発熱のわりに全身状態が大きく落ち込まないことが特徴です。ただし稀に重い肺炎を起こすことがあります。発熱が続き、咳き込みが激しく息苦しさがあり、全身状態が悪い場合は、早めに再受診をお願いいたします。
アデノウイルスに対する特効薬はなく、抗菌薬も無効です。自身の免疫がウイルスを撃退するまでの間、身体を安静に保ち、水分と栄養を適宜補給し、症状を和らげる薬(解熱薬、感冒薬)を適宜使用して、つらい期間を乗り切るしかありません。
<咽頭結膜熱> 主に3型によります。上述の呼吸器感染症に加えて、結膜炎を生じます。眼の充血と眼脂が特徴です。耳前や頸部のリンパ節が腫れることがあります。かつてプール利用時の接触やタオルの貸借で感染することが多かったため「プール熱」ともよばれますが、通常の飛沫や接触でも感染します。対処法は呼吸器感染症と同様で、さらに点眼薬を使用することがあります。学校保健安全法により、「主要症状がなくなって2日間」の登校停止の措置がとられます。
<流行性角結膜炎> 主に8型、19型、37型によります。手を介した接触により感染します。結膜炎の症状が非常に強く、眼が真っ赤に充血し、眼脂や涙が多く出ます。耳前や頸部のリンパ節が腫れることがあります。角膜に炎症が及ぶと角膜混濁に至ることがあり、新生児や乳幼児では偽膜性結膜炎を併発することとがあります。いずれも重い合併症です。結膜炎の症状が著しいときは、早めに眼科を受診することをお勧めいたします。学校保健安全法により、「伝染の恐れがなくなるまでの間」登校停止の措置がとられます。自己判断はせず、医師の指示を受けてください。
<その他> 主に11型により出血性膀胱炎を生じます。血尿が出ますが、数日で軽快します。主に31型、40型、41型により胃腸炎を生じます。腹痛、嘔吐、下痢を伴いますが、発熱の程度は軽いとされています。