今回は薬に関するコラムです。誤解・誤用されがちな薬二点について解説いたします。
[1] 咳止めシール?
風邪をひいて咳をしている子どもの親御さんから「咳止めシールを貰えますか」と頼まれることがあります。「咳止めシール」と称される薬はホクナリンテープ(ツロブテロール貼付剤)です。貼るだけで済むので、薬を飲みたがらない子どもに重宝します。しかし鎮咳薬(咳止め)ではありません。喘息(または気管支炎)に対して気管支拡張薬として使用する薬です。
薬の成分が皮膚を通して徐々に吸収されるため、貼ってから効果が現れるまでに4〜6時間かかります。したがって、この薬を喘息発作(急性増悪時)に使用することは誤りです。明け方に喘息発作(モーニング・ディップ)を生じる子どもに、就寝前に貼って明け方に効果が最大に現れることを目的に使用します。
咳止めシールという誤った概念が流布しているため、風邪に伴う咳にも安易に使用されています。「日本人は膏薬が好きだから」という笑えない説もありますが、「この薬の使い方をよく理解していない処方が少なからずある。販売量の多さは医師の誤用(愚用)に支えられている」というコメント(日本医師会雑誌 第141巻、S317から一部引用)が的を射ています。
この薬は副作用に注意しなければなりません。交感神経系を刺激するため、気管支以外の臓器にも作用します。過剰投与により、動悸、頻脈、振戦(手の震え)を生じることがあります。咳が出たからといって、手持ちのテープを自己判断で貼ることは適切ではありません。
[2] 一発で効く薬?
休日夜間診療所でインフルエンザと診断した患者さんから「一発で効く薬を出してくれ」と言われたことがあります。抗インフルエンザ薬のゾフルーザを指していると思われます。ゾフルーザは、従来の抗インフルエンザ薬(タミフル、リレンザ)と異なり、1回の内服で投薬が完了します。たしかに便利です。ただ誤解してはいけない点は、1回の内服で症状が直ちに消えてなくなるわけではないことです。症状が改善するまでの時間は、ゾフルーザとタミフルの間でほとんど差がありません(B型に対してはゾフルーザの方が優れるというデータがあります)。
ゾフルーザで注意すべき点は、薬剤耐性の変異ウイルス株を高率に発生させることです。12歳未満のA型(とくにH3N2)感染例では、50〜60%の患者に変異ウイルス株が検出されます。変異ウイルス株の検出例について、インフルエンザの病状を非検出例と比較すると、発熱時間に差はないものの、発熱以外の症状が改善するまでの時間は約2倍、ウイルス排出時間も約2倍に延びます。そのため、小児へのゾフルーザの投与は慎重にならざるを得ません。当院は、インフルエンザに対して既存薬のタミフルまたはリレンザを優先し、ゾフルーザは原則として使用していません。
ゾフルーザが「新しい薬だから」「1回の内服で済むから」という理由で頻用されている現状が気になります。薬を投与する時は、その薬の特徴をよく理解した上で、慎重に判断することが必要と思います。