2023年3月19日

アレルギー性鼻炎を治す舌下免疫療法(再掲)

 スギ花粉の飛散がピークを迎えています。全年齢層におけるスギ花粉症の有病率が38.8%に達している現在(2019年全国調査)、鼻水やくしゃみに悩まされている方も多いのではないでしょうか。子どももその例外ではありません。2020年11月にホームページにアップしたコラムを一部改訂して再掲いたします。

 スギ花粉やダニによるアレルギー性鼻炎に悩む子どもが近年、増加しています。2019年の全国調査によると、04歳児の3.8%、59歳児の30.1%、1019歳児の49.5%がアレルギー性鼻炎を患っています。過去20年間で24倍の増加です。アレルギー性鼻炎の治療の基本は、アレルギーの原因物質(アレルゲンと呼称。スギ花粉、ダニ)を回避するための環境整備、抗アレルギー薬や抗炎症薬の内服と点鼻であり、アレルギー体質を根本的に治すことは困難とされてきました。

 根本的な治療法は、実はあります。アレルゲンを少量ずつ長期間にわたり投与して身体を慣らしていき、アレルギー反応を起こしにくい体質に変える方法です。減感作療法またはアレルゲン免疫療法と称します。かつてはアレルゲンを皮下注射で投与していましたが、注射の痛さと頻回の通院が嫌われて、普及に至りませんでした。皮下免疫療法に代わって登場したのが、アレルゲン抽出物を錠剤にして舌下に投与する「舌下免疫療法」です。注射が不要であること、自宅で治療を行えること、副作用の頻度・程度が注射よりも少ないことが利点です。舌下免疫療法はわが国で2014年に認可され、以来6年間でその評価が着実に高まりつつあります。保険適用がありますし、小児医療費助成制度も使えます。しかし一般の認知度はまだ低いのではないでしょうか。

 現在わが国において、スギ花粉症とダニによるアレルギー性鼻炎に対して、舌下免疫療法が保険適用されています。対象者は、5歳以上で、血液検査などで診断が確定しており、(1) 一般的な対症療法で十分な効果が得られない方と (2) 効果は得られるものの対症療法薬の副作用(眠気など)が強く、使用量を減らしたい方です。アレルギー性鼻炎は自然寛解の少ない疾患であり、小児期に発症すると有病期間が長くなるため、舌下免疫療法はぜひ行ってみたい治療法です。治療開始数ヶ月後から対症療法と同等以上の効果が現れ、年単位の治療継続により根本的な体質改善(長期寛解、治癒)が期待されます。治療終了後も効果は持続しますが、症状がもしも再燃した時に治療を再開すると、効果は速やかに現れます。気管支喘息など他のアレルギー疾患を抑える効果も期待されます。しかし本治療は必ずしも全例で有効ではなく、スギ花粉で約8割、ダニで約7割の有効率という成績が報告されています。治療の評価はおおむね半年から1年後に行なわれます。たとえ治癒しなくても、対症療法の使用量や期間を減らせる可能性はあります。

 治療に先立って確認しておく点が二つあります。(1) 少量のアレルゲンを服用する治療法ですので、アレルギー症状が起こる可能性と、その対処法を理解していただかなければなりません。アレルギー症状は治療開始から1ヶ月以内にしばしば見られます。その多くは口腔内のアレルギー症状(違和感、刺激感)ですが、皮膚症状(蕁麻疹)、呼吸器症状(咳、息苦しさ)、ごく稀に全身症状(アナフィラキシー)が起こる可能性もあります。そのため、薬の服用前および服用後2時間は激しい運動や入浴を避けることをお願いしています。診療時間外に生じるアレルギー症状に対応するために、当院は大和市立病院小児科と提携させていただいています。ただし、開始から1ヶ月を過ぎると状態はおおむね安定します。また、アレルギー疾患の病状悪化を避けるため、スギ花粉症の場合、スギ花粉の飛散期(15月)に治療を開始することはできません(ダニアレルギーは時期を問わず開始できます)。気管支喘息が併存する場合、急性増悪時は休薬しなければなりません。(2) 薬剤を連日、長期間服用していただき、13ヶ月毎に受診していただきます。治療を開始した翌年から(数ヶ月後から)効果が現れますが、しっかり治すためには35年の治療期間を基本とします。「石の上にも三年」に倣って「舌の下にも三年」と唱えるとよいかと思います。

 アレルゲン免疫療法は、専門講習を受けて試験に通った医師のみが行うことができます。当院はその資格を有しています。アレルギー性鼻炎でお困りの方は、どうぞご相談ください。