新型コロナウイルス感染症のセルフチェック用に、抗原定性検査キットが市販されています。医療機関に受診しなくても感染の有無が分かるため、利用される方は多くいらっしゃると思います。しかし、検査は万能ではありません。感染しているのに検査で陰性となる「偽陰性」、感染していないのに検査で陽性となる「偽陽性」があることに注意が必要です。特に日常診療の現場では、偽陰性に惑わされるケースをしばしば見かけます。自宅で検査したら陰性だったけど、医院で再検査したら陽性だった、という経験を持たれる方も多くいらっしゃると思います。
抗原定性検査とは、鼻咽頭の粘液や唾液の中に、新型コロナウイルスを特徴づける蛋白質(抗原)が存在するか否かを調べる検査です。抗原が検出されれば「陽性」、検出されなければ「陰性」です(ちなみに、PCR検査は新型コロナウイルスを特徴づける遺伝子配列を調べます)。抗原定性検査もPCR検査も、一定以上のウイルス量が存在しないと「陽性」と正しく判定されません(ちなみに、PCR検査の方が、より少ないウイルス量で検出できます)。ウイルスは存在するけれど検査で検出できず「陰性」と判定された場合を「偽陰性」といいます。
市販の抗原定性検査キットのセルフチェックで偽陰性が出やすい理由をあげてみましょう。
・国が承認した抗原定性検査キットを用いているか? … 国の承認を受けていない「研究用」には検出感度の低い粗悪品も含まれます。品質が保証されている「医療用検査薬」または「一般用検査薬」をご使用ください。
・発症から検査までの時間が短くないか? … 発熱した直後に検査すると、ウイルス量がまだ少なく、抗原が検出されないことがあります。発熱から半日ないし一日を経過した後であれば、検出の感度は高くなります。また、発熱の程度(体温)が高い方が、検出の感度は高くなるようです。
・検体の採取方法は適切か? … ウイルスの増殖は、鼻腔の手前よりも奥の方で盛んに行われます。医院で綿棒を鼻の奥に入れて検体を採取するのはそのためです。しかしセルフチェックでは、綿棒を鼻の奥まで入れることは難しいですね。
以上にあげた理由から、抗原定性検査キットで陰性であっても「もうこれで大丈夫!」と安心するのは早計です。発熱、咽頭痛、倦怠感などの症状が続く時は、医療機関をご受診ください。症状が続くのに無理をして仕事や学校に出て、ウイルスを拡散することは避けたいものです。偽陽性についても解説すべきことはありますが(「検査対象を絞り込んで事前確率を上げる」など)、紙幅が尽きたため別の機会に譲ることにいたします。