リテラシーという言葉があります。原義は「読み書きの能力」ですが、転じて現代では「知識や理解を有効に活用する能力」と訳されます。情報リテラシー、ITリテラシー、金融リテラシーなどさまざまな分野がありますが、今回のコラムでは健康リテラシーについて解説いたします。健康リテラシーとは、「健康や医療に関する正しい情報を入手し、適切に理解し活用する能力」です。健康リテラシーを高めることは、病気の予防や健康の保持につながります。
健康や医療に関する情報を得る手段として、真っ先に思い浮かぶのは、書籍、テレビ、インターネットです。情報は街中にあふれていて、我々はそれらを容易に入手できます。しかし情報のすべてが正しいとは限りません。玉石混交の「石」の方が多いと筆者は感じています。たとえば「がんに効く」「空間除菌」「必ず痩せるダイエット法」といった誇大広告を目にする機会は多いですし、新型コロナウイルスに関して「マイナスイオンが効く」「ワクチン接種で不妊になる」といった怪しい風説があれこれ流布されています。さまざまな情報が氾濫する中で、正しいものを選択し、理解し、活用する能力が求められます。
健康や医療に関する情報の正確性と信頼性を見極める方法を皆様にお伝えいたします。
(1) 発信元を確かめる:発信元が医療専門家か。ただし医療専門家にもいろんな人がいます。データに基づかない専門家個人の意見は、単なる思い込みかもしれません。商業目的が潜んでいる可能性だってあります(すべての個人的意見を否定しているわけではありませんが)。他方、非営利の公的病院や学術団体の見解としての専門家からの発信は、概ね信用できそうに思います。
(2) 一次情報を確かめる:元ネタは何か。主張の裏付けとなる、質の高い研究・論文の具体的なデータ(= 科学的根拠)が示されているか。根拠が示されていないか曖昧であれば、それは情報ではなく「お話」に過ぎません。
(3) 他の情報と比べてみる:単一の発信元だけでなく、他にも当たってみましょう。内容に誤りや偏りがないかどうか、いくつかの情報を比較することで検証が可能です。
(4) 情報の出された時期を確かめる:医学・医療は日進月歩で変化しています。ある程度の時間が経過すると、情報が古くなってしまう可能性があります。いつ出された情報かを確かめましょう。
健康や医療の情報は概して専門性が高く、真偽の判別に迷うケースも多々あると思われます。一人で結論を急ぐのではなく、信頼できるかかりつけ医の意見を聴くことも大切です。筆者はかかりつけ医の一人として、質問しやすい雰囲気を作る、できるだけ時間をとる、分かりやすい言葉を使う(専門用語をできるだけ使わない)、よくある質問に対して書面(= 病気の一口メモ)を用意しておく、専門外の分野については断言を避けて専門医を紹介する、などを心がけることによって、皆様の健康リテラシー向上のお役に立てるように努めています。