新型コロナウイルス感染症の流行が2020年の初頭に始まって以来、インフルエンザは鳴りを潜めたままです。当院においても2020年3月を最後に、インフルエンザの患者さんを一人も診ていません。インフルエンザが激減している理由として、(1) マスクや手洗いなど感染予防対策が徹底されている、(2) 国際的な交流が減って海外からの持ち込みがなくなった、(3) 異なるウイルス同士で感染を阻害する「ウイルス干渉」があった、などが考えられています。過去2年間インフルエンザが流行しなかったことは喜ばしいですが、その反面として、免疫の保有率が大幅に低下していることが懸念されます。
世界の状況を見てみますと、インフルエンザは消滅していません。昨年、熱帯・亜熱帯の地域(インド、バングラデシュなど)で小規模な流行がありました。現在、冬を迎えている南半球のオーストラリアで、インフルエンザ感染者が急増しています。すでに過去5年間の平均値を超える勢いです。季節が正反対になるオーストラリアの動向は、半年後の日本での流行を予測する上で参考になります。海外との交流が再開されたことと相まって、日本でも今冬インフルエンザが流行する可能性があります。
6月23日、東京都立川市の小学校でインフルエンザによる学年閉鎖がありました。児童45人のうち、発熱などの症状で欠席した14人がインフルエンザと診断されました。季節外れの局地的な集団発生が今後の大規模な流行の前触れになるかどうか、現時点で判断することはできません。このまま終息することを願いたいですが、動向を注視する必要はあります。季節外れの流行の一例として、2021年4〜8月にRSウイルス感染症の大規模な流行がありました。RSウイルスは例年9〜12月に流行しますが、新型コロナウイルス感染症の流行に伴いインフルエンザと同様に鳴りを潜めていました。そのためRSウイルスに対して免疫を持つ子どもたちが減り、大流行につながったと推測されています。
新型コロナウイルス感染症が流行する前の日本では、毎年1000万人以上(その半数は15歳未満の小児)がインフルエンザに感染していました。免疫を持たない人が増えている現状で、次にインフルエンザが流行すると、これまでのシーズンを大きく上回る流行になる可能性があります。インフルエンザの症状は通常のかぜよりも重く、まれに脳症、重症肺炎、心筋炎などの重篤な合併症を引き起こします。特に、免疫能の低い小児と高齢者は要注意です。気の早い話ではありますが、今季のインフルエンザワクチンの接種をぜひご検討ください。「どうせ今年も流行しないだろう」と侮ってはいけません。備えを万全にしておくことは大切です。今年度(2022/23シーズン)のワクチン製造候補株はすでに決まっており、10月の供給に向けて製造・検定が進められているところです。当院は9月上旬に予約を開始いたします。詳細が決まりましたらホームページと順番待ちテロップでお知らせいたします。