新型コロナウイルスのオミクロン株による第6波で、子どもの感染者が急増しています。オミクロン株の特徴の一つは感染力の強さです。デルタ株の3〜5倍とされています。家庭内にひとたび持ち込まれると、子どもにも容易に感染します。ただしオミクロン株は、症状が概して軽いことが特徴です。重症化率は、デルタ株が0.18%、オミクロン株が0.05%と推定されています。当院で診療した子どもたちにおいても、大半は軽症です。主な症状は、1〜2日間の発熱、頭痛、倦怠感、咽頭痛です。腹痛を訴える子どももたまにいます。激しい咳、呼吸困難、全身衰弱などの重い症状はほとんど見られません。普通のかぜと見分けがつかないくらいです。わが子がぐったりしていなければ、保護者は過度に不安を抱かなくてもよいでしょう。新型コロナウイルス(オミクロン株を含めて)の治療は対症療法にとどまります。抗菌薬は効きませんし、経口治療薬(モルヌピラビル)は今のところ子どもへの適応がありません。唯一つ有効と思われる治療法は、免疫系を適度に活性化する漢方療法です。発熱の期間を約半分に短縮することが期待できます。当院は苦い薬を頑張って飲める子どもに対して漢方薬を使用しています。
子どもに基礎疾患(心疾患、肺疾患、神経疾患、免疫不全など)があったり高度の肥満であったりする場合、または高齢の祖父母や基礎疾患のある家族と同居している場合、自身の重症化を防ぎ、家族内感染を広げないために、医療機関を受診して感染しているかどうかを早めに確かめることが大切です。早期診断は、家庭内でのマスク着用や別室での隔離などの感染予防に役立てることができます。また、3月から新型コロナワクチンの接種対象が5〜11歳の子どもに広げられます。上記の状況にある子どもは、積極的に接種することが勧められます。
上記の状況にない(リスク因子のない)子どもへのワクチン接種はどう考えればよいでしょうか。これには賛否両論があります。接種に慎重であるべき理由は、(1) 子どもは重症化しにくいので、わざわざワクチンを接種しなくてもよい、(2) 稀ではあるが、重篤な副反応(アナフィラキシー、心筋炎・心膜炎)が報告されている、(3) 頻度の高い副反応(接種部位の痛み、発熱、倦怠感など)があり、登校や課外活動に影響するかもしれない、の三点です。ちなみに、副反応として「不妊になる」「遺伝子の組換えが起こる」「死亡リスクが高くなる」などの話に科学的根拠はありません。SNSやインターネットの書き込みを鵜呑みにするのではなく、信頼できる情報源に当たりましょう。一方で接種を勧める理由は、(1) 一人一人が感染しないことにより、家庭、学校・幼稚園・保育所、さらに社会全体への感染拡大を防ぐことができる、(2) 心筋炎・心膜炎の発症リスクは、ワクチン接種よりも新型コロナウイルス感染症にかかった場合の方が高い、(3) 基礎疾患がない子どもでも、きわめて稀に重篤な病態(小児多系統炎症症候群、MIS-C)が主に欧米で報告されている、の三点です。子どもへのワクチン接種に関しては、それぞれの家族がよく考えて結論を出すべき問題であり、「必ずこうすべきだ」という同調圧力をかけてはいけないと思います。
以上を踏まえた上で、ワクチンに関する筆者の個人的な見解を述べます。新型コロナウイルス感染症の発生以来2年間、子どもたちは我慢に我慢を強いられてきました。その中には「大人の都合」としか思えないような指示もありました。全国一斉休校に始まり、各種行事の中止、学校内での行動の規制、家庭での待機など、子どもたちは今なお強いストレス下に置かれています。その結果として心身が不安定になり、頭痛、腹痛、食欲不振、不眠、登校困難などを訴える子どもが急増しました。小中高校生の自殺者が前年比で100人も増加しました(すべてがコロナ関連であったとはいえませんが)。ワクチン接種により感染を予防することは、子どもたちが日常を取り戻す大きな一歩になると考えます。子どもたちを取り巻く様々な制約や圧迫を取り除いてあげたいと心から願っています。したがって当院は、前述の利害得失を十分に考慮した上でワクチン接種を希望される方々を積極的に受け入れる立場です。ご来院をお待ちしております。
追記(2月6日): 東京や大阪では、新型コロナウイルス感染症の増加率が鈍化傾向にあります。全国に先駆けて感染が拡大した沖縄・山口・広島では、感染者数が減少に向かっています。楽観視はまだできませんが、神奈川県においても流行はいずれピークアウトすると思われます。
5〜11歳のワクチン接種は、オミクロン株への予防には間に合わないかもしれません。ワクチンを接種する意義は、次の流行(新たな変異株)への備えです。軽い風邪で済む株でないかもしれません。当院はワクチン接種をお勧めしています。