2012年3月3日

新登場「ロタウイルス ワクチン」(改訂第三版)

 ロタウイルス胃腸炎は、大多数(95%以上)の子どもが5歳までに一度はかかる病気です。生後6ヶ月から2歳頃に初感染のピークがあります。低年齢でかかるほど重症化しやすく、入院治療が必要な場合もあります。日本では、年間に120万人がかかり、79万人が外来を受診し、7.8万人が入院し、10〜20人が死亡します。世界に目を向けると、年間に1.1億人がかかり、52.7万人が死亡します。子どもの胃腸炎の中で最大級の重症度です。ただし、ロタウイルスに一度か二度かかると免疫がつくので、その後はかかっても胃腸炎の症状は軽くなっていきます。

 ロタウイルスは、冬の後半から春にかけて流行します。ロタウイルス胃腸炎にかかると、激しい嘔吐と水のような下痢便が数日間続きます。他のウイルスによる胃腸炎よりも回復に時間がかかります。ロタウイルス自体に効く薬はなく、こまめな水分・塩分補給で脱水を防ぎ、身体がロタウイルスを追い払うのを待つしかありません。また、ロタウイルスは重度の脱水のほかに、痙攣や脳炎・脳症など中枢神経系の重い合併症を起こすことがあります。

 ロタウイルスは感染力が強く、保育施設などでひとたび誰かが発症すると、どんなに手洗いと消毒に努めても、感染の拡大を抑えることは困難です。感染力が強い理由は二つあります。一つは、便中に排出されるウイルス粒子の数が多いこと。便1g中に数億から数兆個の粒子が含まれます。また、発症前からウイルスの排出が始まり、胃腸炎の症状が治まった後も1週間は排出されています。二つめは、ウイルスの生存力が強いこと。乾いた無生物(家具、タオル、玩具など)上でも約10日間生き延びられます。さらに、石けんや消毒用アルコールで死滅しません。塩素系漂白剤(ハイターなど)や哺乳瓶用の消毒液(ミルトンなど)が必要です。

 ロタウイルスから子どもを守るために、十数年前からワクチンの開発が進められてきました。1998年に作られた第一世代ワクチンは、腸重積の副作用が問題になり使用が中止されました。2004年に作られた第二世代ワクチンは、腸重積との関連が非常に少なく安全とされています。米国で2005年に定期接種が始まり、ロタウイルス胃腸炎による入院を94%減少させることに成功しました(2014年6月、米国小児科学会)。世界保健機関(WHO)は2009年にロタウイルスワクチンを子どもの最重要ワクチンの一つに指定しました。現在、世界120ヶ国を超える国々でワクチンが接種され(74ヶ国で定期接種)、その安全性と効果が証明されています。日本で行われた臨床試験においても、ワクチンはロタウイルス胃腸炎を92%予防することが確認されました。腸重積などの重い副反応は報告されませんでした。【追記】市販後の調査で10万接種あたり1〜7人の腸重積が報告されています。特に初回接種後1週間、繰り返す嘔吐や原因不明の不機嫌が見られたら早めに医療機関を受診してください。初回接種の時期が早いほど腸重積のリスクが低いため、生後14週6日以内に接種することが推奨されています。

 二種類のロタウイルスワクチン(ロタリックス、ロタテック)は、シロップ状の経口生ワクチンです。ロタリックスは、最も流行し重症化しやすい1種類のロタウイルスを弱毒化した1価ワクチンです。交差免疫により他種のロタウイルスにも効きます。ロタテックは、重症化しやすい5種類のロタウイルスを弱毒化した5価ワクチンです。理想的な接種スケジュールは、生後2ヶ月ですぐにロタ、ヒブ、肺炎球菌、B型肝炎の各ワクチンを同時接種し、以後4週間毎に、ロタリックスは計2回、ロタテックは計3回接種します。ロタリックス2回とロタテック3回の接種料金は同額です。日本では残念ながら、ロタワクチンは定期接種ではなく任意接種の扱いです。高額の費用がかかりますが、費用対効果を考えた場合、接種する価値は十二分に高いと考えます。 

(2011年9月21日 初版掲載、 2012年3月3日 改訂第二版、 2016年4月24日 改訂第三版)