トマトの成分に脂肪燃焼効果があると2月10日に発表、報道されて以来、トマトジュースが爆発的に売れて品薄状態に陥っているようです。学術発表の中身は「トマトに中性脂肪を減らす成分が含まれている」でしたが、これをメディアが「トマトはメタボ予防に効果あり」と言い換えて煽ったことでブームに火がつきました。しかし、トマトジュースの過剰な摂取は塩分の過多につながりますし、メタボの発症機構はきわめて複雑であって、トマトを摂取したから万事よしという単純な話ではありません。医学的な効用は眉唾物でしょう。過去に似たような事例として、寒天、納豆、ココア、にがり、バナナなどが一時的に持て囃されましたが、いずれも明確な効果を示すことなく消え去っていきました。ある種の食べ物や栄養素が健康に良いと “過大に” 評価し信奉することを「フードファディズム(food faddism)」といいます。ファドは英語で「のめり込む」という意味です。
フードファディズムの問題点は、食生活を誤った方向に導くこと、そのために健康を損なう場合があることです。身体に良いとされる食品をとりすぎて太ってしまったり、身体に悪いとされる食品をとらずに栄養のバランスを崩したり、さまざまな弊害が起こり得ます。たとえば、牛乳が良いと信じて一日に1~2リットル飲まされていた子どもが、他の食品をほとんど口にしなくなったケースがあります。おまけに鉄欠乏性貧血を併発してしまいました。また、アレルギーが心配だからといってタンパク質を含む食品をいっさい与えられなかった子どもが、重度の栄養障害(体重増加不良と発達遅滞)をきたしたケースもあります。何事も “ほどほど” が良いのであって、極端な栄養法は百害あって一利なしです。
サプリメントや健康食品にも注意が必要です。成人に有用であっても、子どもには有害な成分があります。もしかして、医薬品成分が含まれているかもしれません。また、特定成分の大量摂取により副反応を起こす場合もあります。たとえば、ビタミン類の多くは余剰分が尿中に排泄されますが、ビタミンAやDは身体に蓄積して有害な作用をもたらします。過ぎたるは及ばざるがごとしです。そもそも、親が子どものために愛情を込めて作る食事には、成長と発達に必要な栄養素がすべて詰まっています。わざわざ余計な成分を付け加える必要はありません。「脳の発達に良い」「骨が伸びる」「集中力を高める」などを謳い文句にする商品もありますが、親の期待と不安につけこむ悪質な宣伝であり、薬事法に違反しています。医学的にみて、そのような夢の食品は存在しません。
フードファディズムに陥らないための秘訣があります。第一に、メディアの垂れ流す情報を鵜呑みにしないことです。メディアは視聴率至上主義です。売れ筋の情報には、視聴者の関心を引くための虚偽、誇張、事実誤認が数多く含まれています。学術論文を引用して科学的裏付けを装っていても、都合のよい部分だけを取り上げて強調している場合もあります。情報が洪水のように氾濫する中、その真偽を冷静に判別する能力を育てたいものです。メディアに踊らされてはいけません。第二に、「食事さえ良ければ病気は防げるし治る」という、食事に対する過度の期待をいだかないことです。食事と栄養が健康の重要な要素であることは間違いありませんが、ほかに運動、休養、情緒、医学(予防、治療)なども健康の重要な要素です。一つの要素に偏らない、バランスのとれた接し方が大切です。