2012年1月4日

インフルエンザの感染予防対策

 インフルエンザの流行の中心となるのは15歳以下の小児です。保育園・幼稚園・学校などの集団生活施設で集団発生し、家族を通して地域全体に広がっていきます。インフルエンザにかかると重症化しやすい高齢者や乳幼児や基礎疾患を持つ人を守るために、そして地域における流行や蔓延を抑えるために、小児の集団生活における感染対策はきわめて重要です。

[1] インフルエンザワクチン
 インフルエンザ対策の基本はワクチン接種です。日本では昨季から、A2009年型(いわゆる新型)/A香港型/B型の3価ワクチンが使用されています。ワクチンの有効率は、2009~10年は約70%でしたが、2010~11年は20~30%に落ち込みました。2011~12年の今季は、接種量が増えたことにより、有効率が上がることを期待したいです。

 インフルエンザワクチンの効果は、残念ながら満足できるレベルにありません。ワクチンを接種してもかかる人はいますし、ワクチンを接種しなくてもかからない人もいます。しかし、たくさんの人を集めて数えてみると、やはりワクチンを接種した人の方がワクチンを接種しない人に比べてインフルエンザにかかりにくいのです。ワクチンの対象を「集団」として見て「効果あり」とする報告は、日本からも世界各国からも出ています。たとえば、小児にワクチンを接種すると、その家族の発熱疾患が減るというデータがあります。また、ワクチンを接種した小児がたくさん地域にいると、その地域のワクチンを接種しなかった人もインフルエンザにかかりにくくなるというデータがあります。逆に、学童集団接種を中止したら、高齢者施設でインフルエンザが流行して多数の肺炎の死亡者が出たり、乳幼児の脳症が多発したデータもあります。これは日本発の報告です。つまり、小児集団を守ることは、その地域全体を(したがって構成員である個人、とくに高齢者や乳幼児を)守ることにつながっています。

 では、ワクチンを接種することで重い合併症を予防できるでしょうか。たとえば、ワクチンの有効率を50%、インフルエンザ脳症で死亡する小児を年間50人と仮定します。その50人全員がワクチンを接種していたら、25人はインフルエンザを発症せず、当然、脳症にもなりません。残りの25人はインフルエンザを発症しますが、脳症になるか、普通のインフルエンザで済むか、これはまだよく分かっていません。インフルエンザによる重症肺炎の予防効果についても同じことが言えます。重い合併症はインフルエンザにかかった人の中から出るので、ワクチンを接種してインフルエンザにかかる人を減らすことには大きな意義があります。なお、高齢者については、ワクチン接種で死亡が8割、入院が5割、感染が3割減ることが確かめられています。

[2] 飛沫感染対策
 インフルエンザの主な感染経路は、咳やくしゃみで発せられる飛沫です。飛沫の中には大量のウイルスが含まれています。インフルエンザの迅速診断を鼻水で行うことからも、鼻やのどにウイルスがたくさんいることをご想像いただけるでしょう。飛沫はせいぜい1~2メートルしか飛びませんから、理論上は他人との距離を2メートル以上に保っていれば感染せずに済みます。しかし、現実にはどうでしょうか。明らかにインフルエンザにかかっている人を避けることはできても、感染しても症状がない「不顕性感染例」や、高熱や重い咳を伴わず当人も周囲もインフルエンザと思っていない「軽症例」あるいは「発症初期例」まで排除することはできません。また何よりも、子ども同士が2メートルの距離を保ち続けることは難しいでしょう。したがって、完璧な対策は無理であろうと思います。

 せめて、咳やくしゃみをしている人は「咳エチケット」を心がけてください。咳エチケットの要点は、(1) 咳やくしゃみを他人に向けて発しない、(2) 咳やくしゃみをする時はハンカチやティッシュペーパーで口と鼻を被う、(3) 咳やくしゃみを受け止めた手、鼻をかんだあとの手はよく洗う、(4) 咳やくしゃみが出ている時はマスクを正しく着用する、などです。これだけでも集団生活における流行をかなり軽減することができます。さらに、室内の加湿、空気の入れ替えもある程度は有効です。乳幼児の場合、人混みを避けることも大切でしょう。

[3] 接触感染対策
 インフルエンザのもう一つの感染経路は接触感染です。インフルエンザにかかっている人から直接触れられる場合(握手など)と、器物(ドアノブ、おもちゃ、手すりなど)を介する場合があります。いずれの場合も、感染者の飛沫(咳、くしゃみ)、鼻水、唾液などに汚染されたものを手に触れて、それを口や鼻にもっていくことでウイルスが侵入します。咳エチケットの項でも述べましたが、インフルエンザにかかっている人は「咳やくしゃみを受け止めた手、鼻をかんだ後の手をよく洗う」「汚れたままの手であちこち触らない」、かかっていない人は「なにかに触れた後は手をよく洗う」「汚れたままの手で口や鼻をむやみに触らない」ことが大切です。


 インフルエンザの治療法は昨今、大幅に進歩しています。従来のタミフルとリレンザに加え、イナビル(1回の吸入により5日間有効)、ラピアクタ(1回の点滴により5日間有効)などの新しい治療薬が続々と登場し、今後も数種類が出てくる予定です。しかし、治療が進歩しても、予防の重要性に何ら変わりはありません。ワクチンによる予防を徹底し、集団免疫効果により感染者の発生を減少させることが大切です。かかった後の拡大防止策にも十分に留意する必要があります。

 ※ 参考図書:予防接種は「効く」のか?  岩田健太郎 著、光文社新書(2010年)