2007年4月2日

保育園・幼稚園に入ったら

 4月は新年度の始まりです。保育園・幼稚園に通い始める子どもたちは、生活環境の激変に直面することになります。集団生活は、友達を作る、ルールを覚える、知識と体験を増す、などの点でとても有意義です。しかし一方で、感染症にかかりやすい不利益もあります。免疫能が未発達である乳幼児にとって、病原体に遭遇する機会の多い集団生活は、成長過程における大きな関門でもあります。
たとえば中耳炎や肺炎による入院は、冬季のピークのほかに5月にも小さなピークがあります。これは4月に入園した子どもが風邪を反復し、その経過中に中耳炎や肺炎を併発するためです。また、胃腸炎やインフルエンザを一、二人の子どもが発症すると、その集団内で急速に広がることはご存知の通りです。そのため、ワクチンで予防できる病気(ヒブ、小児用肺炎球菌、四種混合、麻疹・風疹、B型肝炎、水ぼうそう、おたふくかぜ、インフルエンザなど)は、入園前に接種をすべて済ませておくことが望ましいです。しかしワクチンで免疫を作ることができる病気はごく限られており、ワクチンの存在しない風邪ウイルス(200~300種類あるといわれています)に対しては、自分の力で免疫を作っていくしかありません。保育園・幼稚園に通い始めると、月に一、二回は風邪を引きます。発熱、鼻水、咳、嘔吐、下痢など風邪の症状は多くのウイルスに共通で、どのウイルスによる風邪かを区別することはできません。何度も同じような風邪を引いているようにみえても、実際は異なるウイルスによる風邪を次々に引いていると考えられます。そして、それぞれのウイルスに対する免疫を獲得して、しだいに風邪を引かなくなります。

 風邪を完璧に予防することは不可能ですが、減らすことはできます。集団生活における感染防御対策は、保育施設ならびに子どもを通わせる保護者の方々にとって、是非とも知っていただきたい知識です。
① 排泄物の処理・手洗い・消毒:胃腸炎の大部分は、便や吐物に排出された病原体(ノロウイルス、ロタウイルス、大腸菌など)が人の手に付着し他者の口に入ることで、広く伝播されます。日頃からオムツを処理した手をよく洗い流すことを心がけましょう。もしも園内で胃腸炎が発生した場合、1) その子が使った流しやトイレの消毒、2) 吐物で汚染された床・寝具・衣服・玩具などの消毒は、感染の拡大を防ぐ上で非常に重要です。
② 食品の衛生管理:日頃からの留意点として、1) 食品を扱う前に手を洗う、2) オムツを処理する場所と食品を扱う場所を厳密に分ける、3) 下痢や嘔吐などの消化器症状や化膿創を有する人は食品の扱いを極力避ける、などが大切です。食品の汚染は集団感染の引き金になることがしばしばあります。
③ 出席停止と再登園の基準の明確化:風邪をはじめとする呼吸器疾患の多くは、咳やくしゃみの飛沫に含まれる病原体を介して広がります。また、胃腸炎については先述のとおりです。したがって、風邪や胃腸炎の症状が著しいときは登園を控えましょう。無理をすると、自身だけでなく他者の健康も害する危険があります。中でも伝染性の高い病気(裏面を参照)については、学校保健法により出席停止期間が定められています。「皆勤賞を取りたいから」「行事に出たいから」「親の都合がつかないから」という理由で、病気でありながら登園させることは法に触れる行為です。わが子を他人への感染源にしないように。
④ 予防接種歴の再確認:予防接種の漏れがないかどうか、入園に際して母子手帳を見直しておきましょう。おたふくかぜと水ほうそうは任意接種の扱いですが、当クリニックは「できるだけ接種しよう」と呼びかけています。インフルエンザについても同様です。
 
 入園直後に数週間おきに風邪をひいていた子どもたちも、年を経るごとに次第に抵抗力を増し、小学校に入学する頃にはそうそう簡単に風邪をひかなくなります。乳幼児期に数々の病原体に遭遇しこれを克服することは、一種の通過儀礼と言えなくもありません。どの程度の病状で保育施設を休ませるかは難しい問題ですが、あえて線引きをするなら、1) 軽い咳や洟垂れ、または軟便があっても、熱がなく食欲も元気も平常どおりなら登園可、2) それ以上の病状であれば欠席して自宅で静養するか医療機関を受診する、となるでしょうか。「どの段階でクリニックに連れて行けばいいか分からない」と親御さんからしばしば質問を受けますが、「いつもと違うな」「心配だな」と感じられる時(個々の子どもによって様々でしょう)が受診のタイミングです。どのような状況でもお気軽にご相談ください。最も大切なことは、日頃から感染予防対策を徹底するとともに、子どもたちの健康状態を把握して病気による変化を見逃さない姿勢であると思います。

 (2013年4月3日、一部加筆修正)