2007年5月15日

ヒブワクチンのすすめ

 インフルエンザ菌b型は、細菌性髄膜炎を起こす力を持つ細菌です。冬季に流行するインフルエンザ・ウイルスとは全く別の病原体で、両者の混同を避けるためにHib(ヒブ)と略称されます。今回のコラムでは、Hibによる髄膜炎の実態とHibを防ぐためのワクチンについて解説いたします。

 子どもがかかる感染症の中で最も怖いのが「細菌性髄膜炎」です。咽頭(のど)や鼻腔に潜む細菌が血液に侵入し、血液脳関門とよばれるバリアを破り、脳神経を冒す病気です。日本では毎年1000人近くの子どもが細菌性髄膜炎にかかり、その原因菌の6割をHibが占めます。つまり毎年600人の子どもがHib髄膜炎にかかっている計算です。5歳未満人口10万人あたり8~9人の罹患率です。特に0~1歳児でHib髄膜炎の70%を占めます。

 Hib髄膜炎は早期診断が難しい病気です。発熱と嘔吐で発症しますが、初日から髄膜炎の特徴が現れる症例は20%に過ぎず、そのため風邪や胃腸炎と区別がつきにくく、診断が遅れることが多々あります。その上、Hib髄膜炎は治療がしばしば難しい病気です。抗生物質の乱用により薬剤耐性化が進行しているためで、Hibの50%以上にペニシリン系の薬剤が効きません。医学の進歩した現代でも、Hib髄膜炎にかかった子どもの5%が命を落とし、25%が重い後遺症(精神遅滞、てんかん、難聴など)に苦しんでいます。

 以上のようにHib髄膜炎は大変に怖い病気ですが、ワクチンを接種すればほぼ100%これを予防できます。Hibワクチンは1980年代後半から海外で使われ始め、現在では100ヶ国以上で使用され、94ヶ国で乳幼児の定期接種に組み込まれています。その結果、Hib髄膜炎の罹患率は1/100以下に激減し、世界的に見れば過去の病気になりつつあります。ワクチンの効果と安全性はすでに十分に実証されています。「予防にまさる医療なし」の考え方を改めて強調したいと思います。
日本でもようやく2008年12月19日からHibワクチンの接種が開始されます。接種のスケジュールは次の通りです。
(1)生後2ヶ月~7ヶ月未満;4~8週間隔で3回(三種混合ワクチンとの同時接種が可能で、この場合は3~8週間隔も可)、1年後に1回、計4回
(2) 生後7ヶ月~1歳未満;4~8週間隔で2回(三種混合ワクチンとの同時接種が可能で、この場合は3~8週間隔も可)、1年後に1回、計3回
(3) 1歳~5歳未満;1回のみ(3歳を超えるとHibに対する免疫力が徐々に増し、5歳を超えるとワクチンは不要とされています)

 ワクチンの主な副反応は、接種部位の発赤・熱感・腫脹、発熱などで、三種混合ワクチンと同等です。重大な副反応(アナフィラキシーショックなど)はきわめて稀です。

 日本におけるHibワクチンの扱いは、定期接種(公費で受けられ、万一の健康被害も国が補償する)ではなく、任意接種(希望者のみ。自費。健康被害への補償額も少ない)です。ワクチンの価格は1回あたり7000円前後です。子どもの健康はお金には代えられませんが、若い子育て世代には大きな負担になると思います。私たち大和市小児科医会は、大和市長に接種費用の公的補助を訴えています。また、国(厚生労働省)に対しては、定期接種(すでに世界では常識!)に一刻も早く格上げするように働きかけてまいります。