溶連菌感染症は、子どもの咽風邪(のどかぜ)の約15~20%を占める、“ありふれた” 病気の一つです。迅速検査法により約10分で診断でき、抗生物質により大多数は1日で解熱します。しかし、原因菌がよく判らず治療法が不十分であった前時代には、リウマチ熱や急性腎炎を続発する重い病気と考えられ、法定伝染病の指定にもとづき患者は隔離されていました。診断と治療が容易になり伝染病の扱いが格下げされた現在でも、保育園・幼稚園・学校などでは過剰に(異常に?)恐れられています。今回のコラムでは、溶連菌を正しく理解するための知識をお届けいたします。
溶連菌感染症を疑うポイントは、その特徴的な症状です。発熱とのどの痛みが著しいわりに、咳や鼻水がほとんど出ません。皮膚の赤いボツボツ(発疹)、頸のグリグリ(リンパ節腫脹)、赤く腫れた舌(イチゴ舌)、吐き気などを伴うこともあります。咽の赤みは非常に強く、慣れた医師が見れば一目で溶連菌と判断できます。咽の赤みが明瞭でないこともたまにあり、その場合は綿棒でのどをこすって溶連菌の有無を確かめます。結果が出るまでに昔は約2日を要しましたが、今の検査法ではわずか10分です。便利になったものです。溶連菌の流行は晩秋から翌年の初夏にかけて多く、真夏から早秋にかけて少なくなります。年齢層は3~13歳児に多く、その上下でかかることは比較的まれです。年がら年中、乳児から大人まで皆、溶連菌にかかるという話を某所で聞きますが、医学的には甚だ疑問です。
溶連菌による咽風邪の多くは6日以内に自然治癒します。それでも抗生物質を用いて治療する理由は、咽風邪の症状を早く治し、他人への感染を防ぎ、万一の合併症を抑えるためです。溶連菌感染症の合併症で最も怖いのはリウマチ熱です。リウマチ熱は開発途上国ではまだまだ見かけますが、溶連菌を適切に治療している国々では0.02%以下の発症率に過ぎず、日本でも今やほとんど見られない病気です。筆者も過去20年間、新規の発症例に遭遇していません。溶連菌感染症を正しく診断し治療することは依然として重要ですが、リウマチ熱も急性腎炎も激減した今、溶連菌を過度に恐れる必要はないと思います。とくに2歳以下の子どもではリウマチ熱の発症が非常に少ないため、治療せずに免疫をつける方がよいとの意見もあるくらいで(筆者はそこまで大胆に割り切れませんが …)、治療を行うにしても通常の半分の5日程度の抗生物質で十分です。大人に関しても同様です。
適切な治療を行えば、ほとんどの場合は24時間以内に症状が消え、他人への伝染力を失い、登園・登校が可能になります。2日目になっても熱が下がらない場合は、溶連菌以外の感染症(主にウイルス性)を併発している可能性があるため、登園・登校せずにクリニックを再受診してください。また、溶連菌は治療終了後に再発することが時々あります。この場合は抗生物質を変更して再治療するほか、家族内保菌者の検索などもあわせて行います。
咽風邪の中で、溶連菌以外の約80~85%はウイルス感染症であり、抗生物質がなくても身体の抵抗力(免疫反応)で治ります。「のどがちょっと赤い」という理由だけで安易に抗生物質を乱用することは、薬剤耐性菌の増加と重症感染症(中耳炎、肺炎、髄膜炎など)の難治化につながります。われわれ医師は、抗生物質の適正使用を厳に心がけねばなりません。