2008年10月1日

経口補水療法は「飲む点滴」

 急性胃腸炎は、消化管に病原体が侵入することで、吐いたり下痢をする病気です。消化管が未熟な乳幼児では、激しい下痢や嘔吐が続いた末に、体内から水分と塩分が失われて脱水に陥ることがよくあります。脱水をいかに防ぐかが、急性胃腸炎の治療のポイントです。ノロウイルスやロタウイルスが流行する時期に先がけて、脱水の防止法を学びましょう。

 嘔吐や下痢のときに、白湯(さゆ)やお茶を与える家庭が多いと思います。多くの場合はそれでも問題なく治りますが、脱水が進行する場合は、ナトリウムなど塩分(電解質)の補充が欠かせません。電解質の入った飲み物といえばスポーツドリンクですが、これはナトリウム濃度が低く糖分が多すぎる欠点があり、脱水の治療に向いていません。医学的に適切な経口補水液は、OS-1(オーエスワン)、アクアライトORS、アクアソリタです。薬局などで入手できますので、いざという時のために家庭に備えておくと便利でしょう。

 子どもが嘔吐を起こしたら、2~4時間の休憩後に経口補水液を飲ませてみましょう。慌てずゆっくり少量ずつ与えることが大切です。嘔吐しているときでも、スポイトやスプーンやストローを用いて、ひと口5mlずつ5分おきに根気よく与えてください。しだいに調子が出てくれば、ひと口あたりの量を増やしましょう。経口補水液の至適量は「子どもが欲しがるだけ、いくらでも」です。おおよその目安は、1回の嘔吐または排便ごとに「体重あたり5~10ml(10kgの子どもで50~100ml)」です。しかし同じ飲み物だけでは飽きますので、嘔吐が止まり食欲が出てきたら、母乳や粉乳あるいは普段から食べ慣れたものを再開しましょう。下痢が続いても、食事を与えて構いません。長期間の絶食は、消化管の回復をかえって遅らせます。ただし、脂っこいものや味の濃いもの(ジュース、ケーキなど)は、回復するまでの間控えてください。

 経口補水療法は、1970年代に発展途上国で有効性と安全性が確認され、先進国に逆輸入された治療法です。最大の利点は、点滴などの特別な器具を必要としないこと。したがって、子どもは痛い思いをしなくて済みますし、家庭でも行うことができます。経口補水療法が日本であまり普及していない理由は、国民の間に根強く存在する「点滴信仰」のためか、あるいは医師の横着のためか(点滴の方が、細かい説明を省けるし、“何となく” 高級な治療法に見えるし…)。理由はともあれ、経口補水療法はもっと試みられていい治療法です。

 しかし、経口補水療法にも限界があります。まず、生後6ヶ月未満、体重8kg未満の赤ちゃんには適用できません。また、1) 経口補水療法を行っても嘔吐が止まらない場合、2) すでに中等度以上の脱水や低血糖に陥っている場合(ぐったりして動かず、目が落ちくぼみ、泣いても涙が出ず、尿があまり出ない)、3) 血便・激しい腹痛・高熱などを伴う場合(細菌性腸炎の可能性が高い)は、点滴による治療が必要です。子どもの状態が芳しくないときは、必ず医療機関を再受診してください。当クリニックは急性胃腸炎に対して、脱水の程度に見合った適正な治療法を選択することに努めています。