2008年4月7日

離乳食の新指針

 昨年3月に厚生労働省から「授乳・離乳の支援ガイド」が発表されました。平成7年の「離乳の基本」から12年ぶりの改訂です。新しくなった指針をもとに、私見を交えながら、離乳食の基本の幾つかを解説いたします。

<離乳準備食としての果汁は必要ありません>
 生後5~6ヶ月までの赤ちゃんの栄養源は、乳汁(母乳または育児用ミルク)だけで十分です。果汁を与える必要はありません。これまで果汁が勧められていた理由は、昔の人工乳が牛乳の組成に近く、ビタミンCが極度に不足していたため。しかし現在の育児用ミルクは十分量のビタミンCを含んでおり、果汁の栄養学的な意義はすでに失われています。それにもかかわらず、果汁が重視され続けた第二の理由は、「離乳に慣れる」という観点から。しかし、離乳食自体が卒乳に向けた準備ですから、「準備のための準備」は意味を成しません。さらに、栄養学的にも問題があります。たとえば、甘味を早い時期から覚えさせると、健全な味覚形成が損なわれます。果汁でカロリーが満たされることにより、肝心の乳汁の摂取量が減る恐れがあります。果汁の摂り過ぎは肥満につながります。生後4ヶ月以下で与えると食物アレルギーを招く恐れがあります。離乳開始前の果汁は赤ちゃんにとって弊害が多いことをご理解ください。
 ただし絶対に不可というわけではなく、乳汁以外のものを飲む姿に成長の喜びを感じる親御さんの気持ちは尊重したいと思います。果汁を与える場合は、湯冷ましで十分に薄めること、飲ませ過ぎないようにスプーンで少量ずつ与えることを心がけましょう。

<離乳食の進め具合は赤ちゃんのペースに合わせましょう>
 離乳の開始は生後5~6ヶ月以降、赤ちゃんが食べ物を欲しがる時期に合わせましょう。生後5~6ヶ月は、赤ちゃんが大人の食べ物に興味を示し、手で物をつかみ口に入れる動作を始める時期です。かつて早期離乳が勧められたこともありましたが、欲しがらないうちから無理に与えても利点は何もなく、赤ちゃんも嫌がって舌出し反応で拒絶します。離乳を急ぐ必要はありません。
 離乳食の量と回数は、赤ちゃんの欲しがる様子と食べっぷりを見ながら、焦らずゆっくり進めていきましょう。従来の指針では、離乳初期・中期・後期・完了期に分けられ一回あたりの摂取量が記されていましたが、細かい区分や数字にとらわれず赤ちゃんのペースに合わせれば、ほぼ間違いはありません。おおよその目安として、2~3ヶ月ごとに回数を1回増やすペースで、生後9~12ヶ月までに3回食にすればよいでしょう。栄養が足りているかどうかは、母子手帳の成長曲線に身長・体重・頭囲の計測値を書き込み、順調に伸びているかどうかで判断します。
 離乳の完了は生後12~18ヶ月頃が目安です。離乳の完了とは、固形物をかみつぶせるようになり、栄養の大部分を乳汁以外の食物から摂取できる状態をいいます。しかし必ずしも断乳を意味するものではなく、赤ちゃんが求めれば母乳を続けても構いません。この時期の授乳は、栄養学的な利点よりも母子間の愛着形成の意義が大きいと言えましょう。

<フォローアップミルクは母乳や育児用ミルクの代替品ではありません>
 生後9ヶ月以降は鉄分が不足しやすいので、離乳食に赤身の魚や肉やレバーを取り入れたり、調理用に使用する牛乳や乳製品の代わりに育児用ミルクを使用するなどの工夫をしましょう。鉄分は体内に酸素を運ぶ赤血球の原材料になり、鉄分の不足は赤血球の減少すなわち貧血をもたらします。乳幼児期に鉄欠乏性貧血が3ヶ月以上続くと、脳細胞の機能が低下し精神運動発達に悪影響をもたらすことが知られています。
 この時期に、鉄分をはじめとする各種栄養素が強化された飲料として、フォローアップミルクの意義が強調されています。しかし、離乳が順調に進んでいる赤ちゃんにとって、フォローアップミルクは必須のものではありません。離乳完了までは母乳か育児用ミルクを基本とすればよく、とくに母乳をわざわざ止めてまでフォローアップミルクに切り替える意味はまったくありません。フォローアップミルクの問題点は、蛋白質をはじめとする栄養素が多すぎて、むしろ離乳の妨げになる場合があることです。フォローアップミルクは離乳完了期の牛乳代替品ととらえ、牛乳と同様に卒乳の一手段と考えるべきでしょう。牛乳に比べて鉄分が10倍ほど多く含まれているため、鉄分の摂取が不足しがちな子どもには適した飲料と言えます。

<「手づかみ食べ」は発達途上の大切な一段階です>
 新しい指針では、生後12~18ヶ月にみられる「手づかみ食べ」が推奨されています。手づかみ食べは、目で見ることで食べ物の形や大きさを確かめ、手でつかむことで食べ物の硬さや熱さを確かめ、口に入れることで食べ物の味や舌触りを確かめるという、目と手と口の協調運動の発達を促します。「自分でやってみたい」という子どもの意欲や達成感も満たします。手づかみ食べは、行儀が悪いのではなく食器や食具を使いこなす前段階ととらえて、おおらかに見守ってあげてください。
 手づかみ食べを支援するポイントは、手づかみしやすい食事を用意すること(ミニおにぎり、野菜スティックなど)、汚れてもいい環境を作ること(エプロンを掛ける、床に新聞紙やシートを敷く)、子どもの食べるペースを大切にすることです。

 離乳食に厳密な定義と組み立ては必要なく、大まかに進めていっても間に合うものだと筆者は考えています。指針や育児書の細部にとらわれ過ぎて、赤ちゃんへの無理な押しつけが行われてはいけません。とは言うものの、初めての子どもを育てる親御さんにとって、心配や悩みの種は尽きないことでしょう。離乳に関するご質問がありましたら、どうぞ何なりとお寄せください。