2006年4月1日

子どもの病気 ウソ?ホント?

 日ごろ保護者の方々から寄せられることの多いご質問に答える形で、子どもの病気の常識を考え直してみましょう。当たり前に思われている知識の中に、意外と多くの誤解が潜んでいる!?ことを感じます。

[1] ワクチンを接種しなくても、病気に自然にかかればいい → ×
定期接種のBCG・三種混合・ポリオ・麻疹・風疹などの意義は言うまでもありません。これらの病気は、かかると命取りになるか、社会に重大な迷惑を及ぼす可能性があるため、ワクチンによる予防は絶対に必要です。では、任意接種のおたふくかぜと水痘(みずぼうそう)はどうでしょうか。「おたふくかぜも水痘も重い病気ではないので、自然にかかるのを待てばいい」という考えもあります。しかし、これらにかかると約1週間の自宅安静と治療が必要です。子どもは幼稚園・学校に行けない、働いている母親は仕事を休まざるを得ないなど、不都合が多く生じます。さらに重要な点は合併症です。たとえば、おたふくかぜは髄膜炎を2~10%、難聴を0.03~0.3%の頻度で合併します。ワクチンを接種しておけば、たとえかかっても(接種してもかかる率は15~20%)、合併症を免れて軽症で済むことが期待できます。

[2] かぜ(急性上気道炎)を治すために抗生物質を飲む → ○(20%) ×(80%)
かぜとは、鼻水・くしゃみ・のどの痛み・軽い咳・発熱(多くは38.5℃以下)を主症状とする上気道(鼻・のど)の感染症です。かぜを起こす病原体の約20%が細菌、約80%がウイルスです。抗生物質が効くのは細菌だけで、ウイルスには効きません。かぜに何でもかんでも抗生物質を使うと、副作用として下痢を起こしたり、耐性菌(薬が効きにくい細菌)を体内で増やしたり、マイナス面の方がずっと多く現れます。「抗生物質が必要な風邪と判断したら最初からしっかり使い、必要でないと判断しても、途中から必要にならないかどうか治るまで監視する」が私の基本方針です。

[3] のどが赤いと風邪が重い → ○ または △ または ×
 のどの赤さと風邪の重さは必ずしも一致しません。のどが赤くて高熱を伴う風邪の中には、抗生物質がよく効くもの(溶連菌など)とまったく効かないもの(アデノウイルスなど)があります。のどがあまり赤くならずに高熱を伴う風邪もあります(インフルエンザなど)。のどが赤くなくても、鼓膜が赤く腫れていたり(中耳炎)、肺雑音がきこえる(気管支炎)場合もあります。「のどの赤さだけではなく、全身をよく診て、病状をよく伺って、総合的に判断する」ことが大切です。

[4] 赤ちゃんが下痢のときはミルクを薄めて与える → ×
粉ミルクを薄めることで、胃腸への負担が軽くなり下痢が早く治るでしょうか。日本外来小児科学会が出した結論は、「ミルクを薄めても薄めなくても経過に差はない、したがってミルクを薄める必要はない」です。私も同じ意見です。むしろ薄めることで栄養が長期的に不足して胃腸の回復が遅れる方がよくありません。決められた濃度で調乳して与えてください。

[5] 強い薬を飲めば病気が早く治る → ×
「薬の強さは症状の強さに応じて決める」のが正解です。軽い咳に強い咳どめ薬を用いても、病気そのものが早く治るわけではありません。逆に、重い咳に不十分な薬しか用いなかったら、治療の意味が薄れてしまいます。個々の病状をよく診た上で、薬の内容と量を決定いたします。
病気の症状の多くは、病原体を排除する生体防御反応の一面を持っています。たとえば、熱には病原体の増殖を抑える役割があります。解熱薬の目的は、平熱まで一気に下げることではなく、1℃ほど下げて身体と気分を楽にすることです。咳には気道内の痰を出す作用があります。強い薬で咳を無理に止めるのではなく、咳の原因となる痰を取り除き、痰の原因となる気道の病気(感染症やアレルギー)を治すことが先決です。下痢には腸管の病原体を排泄する役割があります。強い薬で下痢を無理に止めるのではなく、病原体に追いやられた腸内細菌(消化・吸収を助ける善玉菌)を再興させる治療が必要です。身体の持つ抵抗力を尊重しつつ、薬の力を上手に使って回復を後押しします。

[6] 保育園・幼稚園に通い始めてから、かぜをよくひく→ ○
集団生活に入ると、かぜをひいている子どもと接触する機会が増えて、かぜをもらう頻度も当然増えます。とくに最初の半年から1年間は、毎月のようにかぜをひくこともあり得ます。かぜだけで済めばともかく、もっと重い中耳炎や気管支炎を短期間に繰り返すようなら、2~4週間ほど休園して体調を整えて出直すことも考えましょう。とくに、免疫能が未熟な3 歳以下の乳幼児には十分な配慮が必要です。しかし一方で、同年代の子どもたちとの交流は、知と心の健全な発達に欠かせません。健康に留意しながらも、集団生活を大いに楽しませてあげたいものです。なお、入園に際しては母子手帳を見直して、未接種のワクチンが残っていないかどうか確かめておきましょう。

[7] 抗生物質を飲むと下痢をする → ○ または ×
抗生物質は、感染病巣の細菌だけでなく腸内細菌(善玉菌)まで退治して下痢を起こすことがあります。しかし、抗生物質だけが悪者ではありません。病気で体調を崩すこと自体、消化能力の低下につながり下痢を起こします。ロタやノロのように、お腹を標的とするウイルスもあります。つまり、病気のときの下痢には複数の要因があります。下痢のリスクを承知の上で抗生物質を使用しなければならない場合、とくにお腹の弱い子どもや赤ちゃんには、整腸薬(乳酸菌製剤)を併用して腸内細菌を守る工夫をしています。1日2~3回の軟便までは許容範囲内とお考えください。

[8] 台所の換気扇の下でタバコを吸えば、子どもへの害はない → ×
タバコの煙には40~60種類の発ガン性物質と200種類以上の有害化学物質(気道刺激物質、心臓血管毒性物質)が含まれています。換気扇の下で吸ってもベランダで吸っても、あるいは空気清浄機を使用しても、有害な物質は身体に侵入することが証明されています。煙を吸わされた子どもは喘息や中耳炎などに悩まされ、将来は発ガンの危険を負わされます。わが子の健康はすべての親に共通する願いです。子どもをタバコの害から守るために、親がまずタバコを手放したいものです。