食べることは生きるための基本です。伸び盛りの子どもにとって、「食」は単なる栄養の補給にとどまらず、健康の増進と維持、家族の絆の強化、食文化の理解と継承など、多くのことを体験し学習する場でもあります。食にかかわる子どもの育成、すなわち食育は、知育・徳育・体育とならび、子どもの健全な成長に欠かせない大切なものです。
しかし理想とは裏腹に、現代の食生活はさまざまな問題をかかえています。たとえば、過食や脂肪過多による肥満と生活習慣病、思春期女性のやせ願望と拒食症、BSEや病原性大腸菌O-157に代表される食の安全性の揺らぎ、不規則な生活リズムと朝食の欠食、一家団欒とは無縁の孤食、外食や中食(市販惣菜やレトルト食品など)への依存により衰退する家庭の味、食べられずに廃棄される食品など、食の危機は至る所に存在します。その結果として、「食事がつまらない」「何を食べても同じ」と訴える子どもが増えています。生活習慣病の低年齢化や拒食症の増加も明らかです。私たち大人は今こそ子どもの手本となる食生活を実践し、食べる楽しさを子どもに伝えなければなりません。
子どもの食べる意識の向上には、食べ物が食卓に並ぶまでの過程を教えることが第一歩になります。食材を選んで買う、野菜を作って食べる、料理や配膳を手伝う、などを子どもに体験させましょう。食べ物は最初から食べ物として存在するのではなく、自然の恵みを受けて動植物が育ち、それらが食品となり調理されて食卓に並ぶわけで、食の過程を知ることで食べることへの興味が湧き、「命あるものをいただく」感謝の念も生まれます。第二に、栄養バランスがとれて、季節の旬や繊細な味が感じられる献立を心がけましょう。元気な身体を作るための栄養素(主食と一汁二菜の組合せ)を考える力、五感と想像力を働かせて食べ物を味わう力は、良い献立を通して育まれます。外食や中食に頼りすぎたり、子どもの好みに迎合してばかりでは、子どもの健康観や味覚は伸びません。私たちの食文化を次の世代にぜひ伝えたいものです。和食の良さを見直してみませんか。第三に、食事は家族間のコミュニケーションをはかる大切な場です。単におなかを満たすだけでなく、楽しく会話することで気持ちも満たされます。食を介した一家団欒の意義を今一度、考えてみてください。第四に、食事をおいしくとるには生活習慣の改善が不可欠です。運動不足、不規則な間食・夜食、睡眠不足、心身のストレスなどが重なると、おなかが空かないし食事もおいしく感じられません。日頃から身体をよく動かす習慣をつけ、一日三食と間食(一日に一回、一品)のリズムを作り、食事が待ち遠しくなるような健康的な生活を送りましょう。空腹は最大の調味料です。
心身の元気と健康のもとは食にあります。子どもだけでなく私たち大人も、生涯にわたって食育を意識して実践していきたいものです。