2006年1月5日

ファーストフードと肥満

 わが国の肥満児は過去30年間で約3倍に増加しました。小学校高学年では8~9人あたり1人の割合です。肥満とそれに伴う生活習慣病は、今後さらに深刻度を増すことが予想されます。私事ですが、筆者は米国のセントルイス市で3年余り生活し、成人の約6割が過体重、うち3割が肥満という「肥満大国」の実態をつぶさに見てきました。米国人の問題は、生活様式の西欧化が進む日本人にとって他所事ではありません。今回のコラムでは、米国人の肥満化の元凶とされるファーストフード(fast food)を取り上げ、食習慣の問題について言及します。

 米国のファーストフード産業、とりわけハンバーガー店は隆盛をきわめています。どんな小さな町にも必ず一軒は存在し、若い家族連れから老夫婦まで大勢の人々でいつも賑わっています。ほぼ毎日通うマニアも珍しくありません。店員は概して無愛想で(スマイルは売っていません)、「スーパーサイズか?」「フライは?」「バリューセットにするか?」と矢継早に尋ねます。言われるままに注文すると超特大のボリュームになります。コーラのおかわりは自由です。この味と量に幼少時から染まれば肥満になるのも無理はない、と納得します。

 ファーストフードは、高カロリー、高脂肪、低食物繊維、低ビタミンの食品です。たとえばハンバーガー 大/ポテトM/チキン/コーラMのセットで、カロリーは1291kcal、脂肪は60g(カロリーの42%)に達します。これは成人男性の1日栄養所要量の半分を超えています。カロリー過剰よりもさらに深刻な問題は、小児期における味覚形成への悪影響です。食品に添加された脂肪は、本来は無味無臭ですが、血液に入ったのちに脳に作用して嗜癖性を高めます。「コレステロールそのものが旨い!」と極言する人もいます。小児期にファーストフードに慣れ親しむと、高脂肪食への嗜好を刷り込まれ、家庭でも同様の食事を求めるようになります。ファーストフードが危険な理由は、それ自体の栄養バランスが偏っていることに加えて、日常の食生活まで高カロリー高脂肪食に変えてしまうことです。

 ここまで述べてから白状しますと、筆者は仕事が忙しいときにハンバーガー店を利用します。早くて便利、味付けも日本人好みです。そもそも身体に悪い食べ物というのはなく、いかにバランス良くとるかが肝要です。ファーストフードの問題点を認識しつつ上手に利用するための心得は、1) 月1~2回以下、2) LやMよりSサイズ、3) セットメニューでなく欲しい物だけ、4) 子どもの言いなりにならない、5) おまけに惑わされない、6) 店員の誘いに乗らない(10人に1人はポテトを追加注文するそうです)、7) 飲料はノンカロリー、8) 前後の食事でカロリーと脂肪を減らす。米国のファーストフード事情は、「スーパーサイズ・ミー」というドキュメンタリー映画(2003年)をご参照ください。