2026年3月15日

ピーナッツアレルギーを予防する方法

 「パラダイムシフト」という言葉があります。その時代において当然とされていた常識、価値観、固定概念が根本的に覆り、新しい常識やものの考え方が生まれる現象をいいます。食物アレルギーの予防法の変遷は、まさにパラダイムシフトに該当します。今回のコラムでは、離乳期の赤ちゃんに与える食物(特にアレルギーを起こしやすい食物)を「できるだけ遅らせる」から「できるだけ早く与える」方針に大転換を遂げた経緯について解説いたします。

ピーナッツアレルギーは日本を含む世界中で増加しています。日本での有病率は0.2%で、5番目に多い食物アレルゲンです。ピーナッツは微量の摂取でも重篤な症状(アナフィラキシーショックなど)を生じることがあり、鶏卵や牛乳と比べると自然に治る確率がきわめて低く(約20%)、危険視されている食物の一つです。かつては「3歳まで食べさせない」ことが常識でした。

常識が覆る転機となったのは、2000年代初頭から始まった調査研究です。イスラエルの子どもたちのピーナッツアレルギー有病率が英国の子どもたちの1/10しかない事実を知った免疫学者のラック氏(Gideon Lack)は、イスラエルの子どもたちがピーナッツ入りのスナック菓子を乳児期から食べていることに着目しました。イスラエルの子どもたちの約80%が、生後14ヶ月になるまでの間に毎月少なくとも数グラムのピーナッツ蛋白質を摂取していたのです。

ラック氏は、ピーナッツの早期摂取とアレルギー有病率の低下の関連性を確かめるために、大々的な調査研究を実施しました。食物アレルギーのリスクの高い(重度の湿疹や鶏卵アレルギーを有する)生後410ヶ月の乳児600人あまりを二群に分け、一方の群には5歳までピーナッツを与えないように指示し、もう一方の群にはピーナッツ製品(菓子類やピーナッツバターなど)を積極的に与えるように指示しました。5年後の結果は明白でした。ピーナッツを避けた群の13.7%がピーナッツアレルギーを発症したのに対し、ピーナッツを早期に摂取した群は1.9%の発症に過ぎませんでした。この調査研究は対象者が12歳の年齢に達するまで継続されており、有病率の差異は変わらずに推移していることが確かめられています。

この調査研究から分かったことは、アレルギーを防ぐために食物摂取の開始時期を遅らせる旧来の方針は完全に逆効果だったということです。「離乳が始まったら様々な種類の食物をできるだけ早く少しずつ食べ続ける方がよい」へのパラダイムシフトがここから始まりました。2015年以降、世界各国の離乳食のガイドラインは大幅に書き換えられました。日本においても大阪で小児科医院を開業する西村龍夫先生らが、ごく少量の卵白・小麦・牛乳・きな粉(大豆)・そば・ピーナッツを混ぜた粉末を与えた乳幼児群の方が、与えなかった群よりもアレルギー有病率が低いことを発表されました(摂取群で8.4%、非接種群で23.8%)。素晴らしい業績です。

食物を「早期から」「継続的に」摂取することでアレルギーの発症を防ぐことが新しい常識になりました。最初のひと口は耳かき一杯の少量から始めてください。医療機関へのアクセスが容易な平日か土曜日の午前がお勧めです。食べた後に異状がなければ、少しずつ量を増やしましょう。ピーナッツを与える時、粒のままや砕いた状態では誤嚥性肺炎の危険があるため、ピーナッツバター(無糖・無塩)を白湯に溶くなどして耳かき一杯の量から与えてください。ただし、すでにピーナッツアレルギーがある子どもには適用できません。この場合はかかりつけ医にご相談ください。もしも食べた後に口の周りが少し赤くなった時はどうするか? ごく軽い反応でしたら食べる量を減らして継続できますが、ご心配でしたらかかりつけ医にお尋ねください。当院でも食物アレルギーに関するご相談を承っています。