インフルエンザが異例の早さで流行入りしました。2025年第45週(11月3〜9日)の時点で、神奈川県における1医療機関あたり1週間のインフルエンザ患者数は36.57人です。流行入りの目安が1 週間に1人、注意報レベルが1 週間に10人、警報レベルが1 週間に30人ですから、すでに警報レベルを超えています。神奈川県で11月に「流行警報」が発令されるのは、新型インフルエンザ(A/H1N1)が初めて現れた2009年以来16年ぶりです。当院でも10月初旬から感染者が徐々に増え始め、11月に入って急増し、直近の第46週(11月10〜16日)の1週間で100人を超えました。現在、大和市の複数の小中学校と高校で学級閉鎖が相次いでいます。当初は学童・生徒(小中高校生)が流行の中心でしたが、第45週あたりから幼児(保育園・幼稚園児)にも感染者が増えていて、今後さらなる流行の拡大が懸念される状況です。
英国で直近に行われた研究報告1) によりますと、今シーズンに使用されているインフルエンザワクチンは、子ども(2〜17歳)に対して高い有効性を示しました。インフルエンザ(A/H3N2)に罹ることにより生じる「救急外来への受診を防ぐ効果」が74.8%、「入院を防ぐ効果」が73.8%でした。これらを合わせて重症化阻止効果はおおよそ70〜75%と結論されました。なお、英国の小児では経鼻弱毒生ワクチンが主力で、注射型不活化ワクチンがそれに次ぐ位置づけになっています。日本においても現在のインフルエンザ流行の主流はA/H3N2型(いわゆる香港型)であり、英国と同様のワクチン効果が期待されます。
インフルエンザは冬季に流行を繰り返し、人口の5〜10%(日本では600〜1200万人。半数は15歳未満の小児)が罹ります。インフルエンザによる超過死亡は毎年、数千人を数えます。死亡例の多くは高齢者で、細菌性肺炎の合併が主たる原因です。小児では肺炎や中耳炎を併発して入院に至る例があり、脳症による死亡例が稀に報告されます。インフルエンザ脳症の発生数は毎年100〜300人で推移し、死亡率は7〜8%、後遺症の発生率は約25%とされています。米国疾病予防管理センター(CDC)の過去15年間のデータ集計2) によりますと、致命的な脳症に罹った子どもの年齢中央値は6歳、基礎疾患なしは54%、ワクチン接種済みはわずか20%という結果であり、ワクチン接種の重要性が示唆されました。ワクチン接種は、生後6ヶ月以上のすべての適格者に推奨されると結論されています。
インフルエンザワクチンは、A 09型(A/H1N1)、A香港型(A/H3N2)、B型(ビクトリア系統)の3種類を含有する3価ワクチンです。今シーズンすでにインフルエンザに罹った方も、ワクチン接種により残り2種類のウイルス株に対する免疫を獲得することが期待できます。
1) Early influenza virus characterization and vaccine effectiveness in England in autumn 2025, a period dominated by influenza A(H3N2) subclade K
2) Reports of encephalopathy among children with influenza-associated mortality – United States, 2010-11 through 2024-25 influenza seasons