食物アレルギーといえば、食物を摂取してから1時間以内に生じる皮膚症状(発赤、蕁麻疹)や呼吸器症状(咳、喘鳴)がよく知られています。即時型反応とよばれます。他方、非即時型反応の一つとして、食物を摂取してから1〜4時間後に消化器症状(嘔吐、下痢)が現れる「食物蛋白誘発胃腸炎症候群(FPIES、エフパイス)」が最近、注目を集めています。以前は稀な疾患とされていましたが、報告数が増えたことにより、2012年から食物アレルギー診断ガイドラインで扱われるようになりました。食物アレルギーとは気づかれにくいFPIESについて解説いたします。
2024年4月、日本人におけるFPIESの調査結果が国立成育医療研究センターと筑波大学から発表されました。対象は遅延性の嘔吐を経験した小児225人です。原因食物として、鶏卵が最多で58.0%を占め、次いで大豆(11.1%)、小麦(11.1%)、魚類(6.6%)、牛乳(6.2%)、貝類(3.7%)、果物(2.0%)の順に続きました。鶏卵のうち94.3%は卵黄が原因でした。嘔吐以外の症状として、顔色が悪くなる(青ざめる)、元気がなくなる、下痢を生じる、なども示されました。
鶏卵アレルギーの代表的な症状は卵白摂取によって生じる即時型反応ですが、これに対してFPIESでは主に卵黄を摂取してから1〜4時間後に嘔吐を何度か繰り返します。下痢や血便を伴うこともあります。皮膚症状や呼吸器症状を伴いません。急性胃腸炎との区別がしばしば困難ですが、「同じものを摂取すると吐く」「1〜2時間で症状がなくなる」ことがFPIESに気づく手がかりになります。
やや専門的な話になりますが、FPIESは細胞性免疫を介して起こります。即時型反応の原因となる液性免疫(抗原特異的IgE)とは異なる仕組みです。したがって、抗原特異的IgEを測定する血液検査は診断に使えません。診断の手がかりは症状の存在であり(原因となる食物は問診から推定しやすいです)、診断の確定方法は経口食物負荷試験です。
FPIESの治療は原因となる食物の除去です。即時型反応では、症状の出ない上限量を確認し、その範囲内で積極的に摂取を続けることが推奨されます。免疫寛容(異物として排除せず受入可能な状態になること)を誘導する方法です。しかしFPIESではその方法が通用せず、完全除去が原則です。ちなみに、卵黄だけにアレルギーを有する場合、卵白まで除去する必要はありません。
もしも誤って原因となる食物を摂取して嘔吐したら、通常は1時間前後で軽快しますので、慎重に経過を観察していただければよいと思います。しかしひどく元気がなかったり顔色が悪かったり嘔吐が長引いたりしたら、医療機関を急いで受診なさってください。なお、FPIESはその発症機序(細胞性免疫)から、即時型アレルギーの治療薬である抗ヒスタミン薬やエピペン注射が効きません。
乳幼児にみられる卵黄のFPIESのほとんどは、2〜5歳で自然に治ります。他の食物も同様で、成長とともに(多くは幼児期のうちに)治ります。食物を摂取できるようになったかどうかの判定方法は、経口食物負荷試験です。当院は大和市立病院に依頼して検査の適否を検討していただいています。