2025年7月16日

五苓散(ごれいさん)は小児医療に欠かせない漢方薬です

 漢方薬は、複数の生薬(植物の根・茎・果実、鉱物、動物などを加工したもの)を配合して作られる薬剤で、身体にもともと備わっている自然治癒力(病気を治す力)を後押しする働きがあります。当院の日常診療は西洋医学を基本としていますが、漢方薬の方が優れた効果を期待できる場合や、西洋薬で十分な効果を得られない場合(あるいは西洋医学に治療法が無い場合)に、漢方薬を積極的に使用しています。漢方療法の中で最も重宝する薬剤の一つが五苓散(ごれいさん)です。今回のコラムで五苓散について解説いたします。

 五苓散の作用は「水を捌く(さばく)」ことです。五苓散の作用する箇所は、細胞膜の水路にあたるアクアポリンです。アクアポリンの働きを阻害または促進することで、細胞レベルでの水の出し入れを調整します。その結果、浮腫状態では利尿作用、脱水状態では抗利尿作用を発揮します。言い換えると、五苓散はアクアポリンを介して、細胞がむくんでいる時は水を外に出し、細胞の水分が足りない時は水を内に入れ、細胞内の水分量をちょうど良いバランスに保ちます。五苓散は、その薬理作用が科学的に解明された漢方薬の一つです。

 五苓散が主に作用する臓器は、脳、神経鞘、腸管です。五苓散の適応疾患は、脳浮腫、頭痛、急性胃腸炎、乗り物酔い、めまい発作、暑気あたり等です。即効性があり、ほとんどは頓服で対応できます。小児科領域における具体的な使用例をあげていきましょう。

 五苓散が最も活躍する疾患は急性胃腸炎です。嘔吐と下痢に効きます。「水分を欲しがって飲むけど、飲んだらまた吐いてしまう」時に五苓散の出番です。西洋薬(ナウゼリン等)よりも効きます。もしも味が苦手で服用が難しい場合、坐薬や注腸の形でお尻から投与することもできます(当院は注腸を行っています)。五苓散の注腸を受けた子どもの多くは、自宅に帰り着く頃に吐き気が治まっています。もしそれでも嘔吐が止まらない時は、五苓散を微温湯に溶いて甘味を加え、スポイトやスプーンで少量ずつ服用させるとよいです。当院で服用の工夫をご指導いたします。

 五苓散が活躍するもう一つの疾患は脳のむくみです。低気圧が接近する時に感じる頭痛(天気痛・気象病)、乗り物に揺られて生じる頭痛・吐き気(動揺病)、高温環境で過ごしている時に生じる頭痛・吐き気(熱中症Ⅰ度)、さらには飛行機の離着陸時に感じる頭痛・耳痛(航空性中耳炎)、二日酔い(これは小児医療には無関係ですが)等に優れた効果を発揮します。予防にも治療にも使えます。たとえば雨が降ると頭痛をきたす場合、前日から服用を始め、雨が止むまで服用を続けるとよいです。9割以上の人に有効とされています。頭痛を感じた時に頓服しても効きます。西洋薬(アセトアミノフェン等)よりも効きます。車に乗ると酔う場合、乗車30分前に服用し、それでも乗車中に吐き気を感じたら追加で服用するとよいです。高温環境で活動する場合、前日から服用を始め、活動が終わるまで服用するとよいです。軽い熱中症の症状(頭痛、吐き気、嘔吐)が現れた時点で服用しても効きます。もっとも、熱中症の予防は五苓散だけに頼るのではなく、水分・塩分の補給や適度の休息が大切であることは言うまでもありません。

 五苓散は用量を守れば、重大な副作用はありません。安心して使える薬です。五苓散には錠剤もあります。あの味がどうしても苦手、という方には錠剤をお勧めしています。五苓散は小児医療に欠かせない薬です。いろいろな病気でお困りの時、五苓散の優れた効果を実感していただけますと幸いです。どうぞお気軽にご相談ください。