2025年5月24日

チック、チック症への対応法

 親御さんから、「うちの子はまばたきをよくします。目が痒いのでしょうか?」「咳払いが止まりません。喘息か何か、肺の病気があるのでしょうか?」などの心配事を相談される機会がしばしばあります。おそらくチックという症状です。チック、チック症について解説いたします。

 チックとは、筋肉や声帯が、突発的・瞬間的・反復性に動くことです。症状により、① 単純運動チック(まばたき、首振り、肩すくめ、顔しかめ、舌出し)、② 複雑運動チック(表情を変える、飛び跳ねる、手で叩く、全身を突っ張る、地団駄を踏む)、③ 単純音声チック(声出し、鼻すすり、鼻鳴らし、咳払い、舌打ち)、④ 複雑音声チック(自分の言葉を繰り返す、相手の言葉を真似る、汚言症)に分類されます。ある程度は意図的に止めることができますが、基本的には制御しにくい動きです。頻度が増す場面は、不安や緊張が増大した時、気分が高揚し興奮した時、気分が大きく変動した時です。頻度が減る場面は、一定の緊張度で安定している時、集中して作業している時睡眠中です。チックを繰り返して日常生活に支障をきたす状態を「チック症」といいます。

 チックの原因はまだ完全には分かっていません。かつて、心因性の癖と考えられていた時期もありますが、現在は、ドパミンを中心とする脳内の神経伝達回路が関与する神経発達症の一つと理解されています。複数の遺伝要因が関与します。「脳の体質」と表現してもよいでしょう。

 小児の10人に12人がチックを経験します。女児に比べて男児に3倍多く見られます。ストレスが誘因で起こるケースは全体の1/3で、残りの2/3は明確なきっかけがなく発症します。幼稚園〜小学校低学年で始まり、23ヶ月以内に消えていく場合もあれば、増減を繰り返しながら数年間続く場合もあります。多くは中学生までに消え去りますが、数パーセントの人は成人期まで症状が残ります。チックが1年以内になくなる状態を「一過性チック症」、1年以上続く状態を「持続性チック症」、多種類の運動チックと音声チックが1年以上続く重度の状態を「トゥレット障害」とよびます。トゥレット障害は小児1000人に38人の頻度で生じます。

チックへの適切な対応法は以下のとおりです。① チック自体は異常なことでなく、脳の体質の一つ(しかも時間の経過とともに軽快・消失することが多い)と理解し、受容してください。「心配ない」と本人を安心させることが大切です。② 親の育て方が悪いわけではなく、本人の性格や自己コントロール力に問題があるわけでもありません。③ いちいち指摘したり叱責したりして無理に抑えてはいけません。自己肯定感を損ない、症状を悪化させます。些細な変化に一喜一憂せず、気長に気楽に付き合ってください。④ 不安や緊張はチックを増強する要因になり得るため、可能な範囲内で環境を調整して軽減を図りましょう。しかし過度の配慮は不要です。たとえば、緊張する行事(運動会や学芸会)に参加してもかまいません。数日前からチックが増えますが、終われば12日で軽減します。社会的ルールを覚えさせるために注意したり叱ったりするとチックが一時的に増えますが、これも短期間で元に戻ります。大切なことを優先させて大丈夫です。

チックがなかなか良くならない時や日常生活に支障をきたす時は、薬物療法が考慮されます。漢方治療と西洋薬の選択肢があります。小児では、安全性が高く副作用や依存性の問題がほぼない漢方治療が適しています。当院は、お子さんの特性や症状に合わせて、適切な漢方薬を選択し治療しています。どうぞお気軽にご相談ください。症状が非常に強かったり他の神経症状を伴ったりする時は(衝動性、攻撃性、汚言症、強迫性障害など)、西洋薬による治療が必要かもしれません。その場合は児童精神科に相談させていただきます。