2019年3月6日

発達障害の診療について考える

 発達障害とは、脳神経の一部の先天的な機能異常にもとづく疾患です。いくつかのタイプに分類されていて、(1) 学習障害、(2) 注意欠如・多動性障害、(3) 自閉症スペクトラム の三つが代表例です。自閉症スペクトラムとは聞き慣れない言葉ですが、自閉的な傾向の程度(薄い人から濃い人まで)と知的障害の程度(正常から重度まで)に大きな幅があることから、連続体(スペクトラム)の表現が用いられています。(1) (2) (3) の特徴・症状は重なり合い、一人で複数の疾患を合わせ持つこともあります。

 発達障害は稀な疾患ではありません。2012年に文部科学省が行った全国調査によると、通常学級内で発達障害の可能性がある児童・生徒数は6.5%で、1学級に2〜3人の割合です。発達障害の子どもは近年、増えているでしょうか? 2002年の文部科学省の調査成績は6.3%で、過去10年間で変わらないと結論されています。しかし、世間一般の認知度が上がったことにより、新たに診断されるケースは少なくないと感じます。医療や教育の現場では「増えている」が実感でしょう。ただ最近は “過剰診断” の傾向があり、少しでも困った行動があると安易に発達障害が疑われるようです。医学的な妥当性から外れた使われ方も見られます。自己判断で決めつけることはせず、発達障害をよく知る医師に相談することをお勧めします。

 発達障害の診療は、日本でも世界でも、最近の十数年間で急速に普及しました。したがって、ほとんどの医師にとって未体験の分野です。筆者も小児科医院を開業した15年前、発達障害に関する知識は希薄でした。外来診療を行う中で対応の必要性を痛感し、医学書を読んだり講演会に出席したり患児と向き合ったりすることで、発達障害を勉強し研鑽を積んできました。開業三年目に「成育外来」を土曜日午後に設置し、主に幼児・学童を対象に、発達相談を行い、関連機関(行政、教育、療育、専門医)との連携を図っています。目下の悩みは予約が半年先まで取れないことです。需要の多さに供給が追い付いていません。

 子どもの心を専門に扱う医療機関(児童精神科、子どもの心を診る小児科)でも、数ヶ月に及ぶ予約待ちが常態化しています。専門医の数が少ない現状で、どうすればよいか!? 答えは「小児科医が発達障害の診療を積極的に行うこと」です。なかでも小児科開業医(かかりつけ医)は、赤ちゃんの時から親子を診ている、乳幼児健診や日常の診療において発達上の問題に気づきやすい、長きにわたり親子と付き合える(異動がない)など、有利な立ち位置にいます。小児科開業医(かかりつけ医)の使命は、風邪などの治療を行うことだけでなく、子どもの成長と発達を支援することです。発達障害を診療するためには、患者・家族と何でも気軽に相談し合える信頼関係を作っておくこと、発達障害の知識を一般的素養として持つこと、この二点がすべての小児科開業医(かかりつけ医)に求められていると思います。

 しかしながら、小児科外来の一般診療はしばしば多忙で、発達相談に長い時間をかけることが容易ではありません。当院は、事前に電話連絡をいただくこと(日時を調整します)、発達に関する情報提供書(保育園・幼稚園・学校、療育機関などから)をできるかぎりご用意いただくこと、予診票の記入にご協力いただくことを皆様にお願いしています。また、一度の診察だけで結論を出すことは無理で、後日の再診が必要であることも予めご了解いただいております。