2018年8月19日

風疹ワクチンが胎児を障害から守る

 風疹が首都圏で急増しています。本年8月第1週までの累積患者数は96人で、昨年1年間の93人をすでに超えています。風疹にかかった人の約7割は30〜50代の男性です。予防接種歴は「不明」か「なし」がほとんどです。今回のコラムで、なぜ風疹が怖い病気か、なぜ風疹が時々流行するか、風疹を防ぐには何をすればよいか、について解説します。

 風疹ウイルスは、咳やくしゃみの飛沫を介して感染します。2〜3週間後に発熱、発疹、頸部リンパ節腫脹などの症状が現れますが、多くは軽症で済みます。しかし妊娠初期の女性が感染すると、お腹の赤ちゃんにも感染して先天性心疾患、難聴、白内障、発達遅延などの重い障害を起こすことがあります。これを先天性風疹症候群といいます。2012〜13年に風疹が全国的に流行した時は、45人の先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれました。統計には表れませんが、妊娠中絶を選択した人も多数にのぼったと推測されます。

 風疹はワクチンを2回接種することで、ほぼ防ぐことができます。現行の制度では、1歳時と就学前1年間の計2回、麻疹・風疹(MR)ワクチンを定期予防接種して免疫を確実に獲得する仕組みができています。しかし以前は1回だけの接種、それも中学生の女子だけ、という時期もありました。一度も予防接種を受けていない可能性の高い年代は、1979年4月1日以前に生まれた男性(39歳以上)と1962年4月1日以前に生まれた女性(56歳以上)です。一度だけしか予防接種を受けていない可能性の高い年代は、1990年4月1日以前に生まれた男女(28歳以上)です。したがって、流行の主体は子どもではなく成人男性です。2012〜13年の全国流行の中心も20〜40代の男性で、職場での流行が目立ちました。おそらく、妊娠中の女性への感染源にもなったと思われます。

 先天性風疹症候群の発生数は、欧米先進国ではほぼゼロです。日本は残念なことに、ワクチン制度の不備により、発生ゼロを未だ達成できていません。風疹の流行を止める手段は、(1) 定期予防接種率を95%以上に維持すること、(2) 予防接種を2回済ませていない成人に対して接種を推奨すること、の二点です。(1) に関して、対象年齢に達した子どもを持つ親御さんは、できるだけ早く予防接種を済ませてください。特に2回目の接種は忘れられがちです。(2) に関して、妊娠を希望する女性で2回接種していない方は、急いで予防接種を済ませてください(接種後は2ヶ月間の避妊が必要です)。妊娠している間は予防接種できません。男性で2回接種していない方は、やはり急いで予防接種を済ませてください。とくに妊娠を希望する(または妊娠中の)女性と同居している場合、家庭内に風疹を持ち込まないために予防接種は必須といえます。家庭のみならず、職場で感染源になることも避けなければなりません。予防接種歴を確かめる唯一の手段は母子手帳です。記録や記憶が曖昧な場合、予防接種を2回以上行っても問題はないので、積極的に追加接種しましょう。また、妊娠時の血液検査で風疹のHI抗体価が低い(8倍以下、8倍、16倍)と言われた女性は、出産後なるべく早く追加接種をすることをお勧めします。授乳中でも安全に接種できます。

 当院は、風疹単独ワクチンではなくMRワクチンを推奨しています。1990年以前に生まれた方は、麻疹ワクチンも1回しか受けていない可能性が高いです。麻疹は成人にとっても非常に重い病気です。風疹と合わせて免疫を強化する方が得策といえましょう。