2018年2月7日

成長曲線を活用しよう 2

 第一編で乳幼児の成長曲線に触れました。第二編では児童・生徒(6〜18歳)の成長曲線について解説いたします。

 手始めに成長曲線を入手しましょう。日本小児内分泌学会のホームページをご参照ください(http://jspe.umin.jp/public/teisinchou.html)。「成長曲線を印刷する」をクリックすると、男女それぞれの成長曲線をダウンロードすることができます(成長曲線は当院でもお配りいたします。ご希望の方は受付にお申し出ください)。最も太い線で示されているのが平均値の曲線です。平均値より上に+1SD、+2SD、下に−1SD、−2SD、−2.5SD、−3SDの曲線が描かれています。SDは標準偏差の略です。乳幼児の成長曲線はパーセンタイル(百分位数)で表示されますが、学童・生徒の成長曲線はもっぱら標準偏差で表示されます。−1SDが15.9パーセンタイル、−2SDが2.3パーセンタイル、−3SDが0.13パーセンタイルに相当します。

 平均±2SDの中に小児の約95%が含まれ、この範囲内が標準とされます。−2SD以下の身長は「低身長」と定義されますが、強調しておきたいのは、標準から外れていても直ちに異常(または病気)ではないということです。成長は「点」でなく「線」で評価すべきですので、過去数年間の計測値を記入してみましょう。−2SDを少しばかり下回っていても曲線に沿って伸びていれば、それはその子の個性であって異常ではありません。くれぐれも「小さくて可哀想」と否定的に捉えないでください。身長の大部分は両親から受け継いだ複数の遺伝子に規定されていて、本人の努力で改変できるものではありません。健全な食習慣、適度の運動、十分な睡眠時間を堅守していればよろしいでしょう。そして身長だけに拘泥することなく、内面を磨くことに重きを置いていただきたいと思います。ちなみに、「背が伸びる」と称するサプリメントや特定の食品には何の効果も実証されていません。日本小児内分泌学会の見解を御覧ください(http://jspe.umin.jp/public/kenkai.html)。ぶら下がり健康器など背を伸ばす器具も無意味です。

 身長に関して、専門医に相談すべき病態は三つあります。(1) まだ伸び続けるはずの時期に伸びが停滞する場合(年間4cm以下が目安)、(2) −2SDをかなり下回る場合(−2.5SD以下が一応の目安)、(3) 思春期年齢に達していないのに一気に伸び始めた場合。特に (1) について、身長が−2SD以上あっても伸び率が低ければ異常です。成長ホルモンや甲状腺ホルモンの分泌を妨げる病気などが想定されます。その背後に脳腫瘍が潜んでいるケースもあります。身長の伸びを撹乱する病気は稀ではなく、中には重い病気も含まれることをご承知おきください。

 体重は、遺伝だけでなく環境の作用を大きく受けます。栄養過多で肥満を、栄養不足で痩せを生じます。小児期発症の肥満はそのまま成人期に移行しやすく、成人期発症の肥満に比べて4倍ほど高率に動脈硬化性疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)を合併します。早くから動脈に脂質などが蓄積すると、それだけダメージが深くなるわけです。身長の増加に釣り合わないほどに体重が急増したら要注意です。一方、体重の不自然な停滞や減少があれば、摂食障害を疑います。近年増加し低年齢化している神経性食欲不振症は、伸び盛りの子どもの心身を著しく破壊する重病です。精神障害の発症や死亡率の高い難治性の心身症に進行することも稀ではなく、早期診断、早期介入が望まれます。体重が1チャンネル下方に(たとえば−1SDから−2SDに)シフトしたら危険な兆候と考え、急いでかかりつけ医に相談してください。

 成長曲線は子どもの健康を測るバロメータであり、病気を早期発見する手がかりにもなります。学校健診などで得られた計測値を成長曲線に記入し、伸び具合が気になるときは専門家にご相談ください。