漢方薬の得意分野の一つに「免疫調整作用」があります。生体の防御機能が低下した時、免疫系を活性化させて、病原体への抵抗力を高める働きです。体内システムの異常を元に戻す作用は漢方薬に特有であり、この点で西洋薬は全くかないません。免疫調整作用を有する漢方薬の代表例は、麻黄湯(まおうとう)、葛根湯(かっこんとう)、小柴胡湯(しょうさいことう)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)などです。葛根湯はわりと有名ですね。子どものかぜの約90%はウイルス感染症です。抗菌薬は効きませんので、こういう時こそ漢方薬の出番です。
これからの季節、ヘルパンギーナや手足口病などの夏かぜが流行します。悪さをする病原体はエンテロウイルス属(コクサッキーウイルス、エコーウイルスなど)です。高熱や口内炎や皮疹が突然に現れます。口内痛をしばしば伴うため、思うように食べたり飲んだりできません。西洋医学で対応しようとすると、抗菌薬は意味がないので、せいぜい解熱薬とうがい薬くらいでしょうか。あとはひたすら寝て治るのを待つしかありません。漢方医学ならば、積極的に治すための選択肢がいくつかあります。子どもが高熱でふうふう言っている時は麻黄湯を試します。ただ漠然と飲ませるだけでは効果が薄いです。飲ませ方にコツがあります。また、止め時や他の薬への切り替え時にもコツがあります。そのあたりは個々の子どもの体質や状態に合わせて判断します。ヘルパンギーナや手足口病の他にも、たとえば、アデノウイルスによる咽頭結膜熱(プール熱)にも漢方薬がある程度は役に立ちます。溶連菌による咽頭扁桃炎は … これは抗菌薬の出番ですね。中耳炎や副鼻腔炎を併発した時も、抗菌薬が必要かもしれません。夏かぜの診療においても、丁寧な問診と診察そして的確な診断は大切です。なんでも漢方薬、なんでも西洋薬、といった偏った考え方ではなく、病態に応じた最適の治療法を正しく選択したいと思います。
漢方薬の最大の欠点は、独特の味と臭いです。飲み方の基本は「熱い湯に溶いて飲む」ことですが(その方が速く効きます)、大半の子どもには難しいですね。当院は「単シロップ割り」をお勧めしていますが、それでも飲めない時は好みの食材に混ぜ込んで下さい。ココア、アイスクリーム、ヨーグルト、ジャム、ゼリー、カルピスなど何でも構いません。パンケーキやクッキーの生地に混ぜ込んで焼く、なんてこともありです。最初は、ひとくち舐められただけでもうんと褒めてあげましょう。お母さんの熱意と褒め上手がポイントです。飲んで褒められて身体が楽になることを感じれば、子どもは嫌な薬でも一生懸命に飲むようになります。頑張って薬を飲ませてくれるお母さんを私が褒めることも、服薬を成功させるポイントかな (^_^)v