2015年9月13日

インフルエンザワクチン 2015年 最新情報

 毎年流行するインフルエンザウイルスには4種類があります。A型2種類とB型2種類です。
   A (H1N1) … 2009年にブレークした、いわゆる新型
   A (H3N2) … 1968年以来流行が続いている、いわゆる香港型
   Bビクトリア系統
   B山形系統

 インフルエンザワクチンは、その年に流行が予想されるウイルス株に合わせて作られます。今季2015年の組成は、A (H1N1) … 昨季と同じ株、A (H3N2) … 昨季と異なる株、B … 山形系統とビクトリア系統の両方(昨季は山形系統のみ)です。その年のワクチン製造株は、専門家の意見を集めた上で、厚生労働省が5〜6月に最終決定します。国内のメーカーによる組成の違いはありません。
 A (H1N1) は新型インフルエンザとして2009年に登場して以来、構造が変化していないため、製造株に変更はありません(高い有効率を維持しています)。A (H3N2) は構造を頻繁に変化させる性質があり、昨季も大幅に変わったため(そのために有効率が下がりました)、今季は新しい株に置き換えられます。B型は構造がほとんど変化しません。従来、2系統のどちらが流行するかを予想して1系統だけが入っていましたが、予想が外れたり両系統が混合流行したりする年もあり(過去11年間の成績は6勝4敗1流行なし)、今季から2系統が入ることになりました。B型が1価から2価に増えるため、A型の2価と合わせて、従来の3価ワクチンから4価ワクチンに変わります。それに伴う値上げはまことに心苦しいですが、有効率が上がることを期待しています。

 インフルエンザワクチンは毎年継続して接種する必要があります。理由の一つは、インフルエンザウイルスの構造が毎年少しずつ変化するため、過去の接種によりある程度の免疫が得られていても、今季の流行に対応できない危険性があることです。13歳未満の小児において、毎年接種していれば1回接種でも感染防御レベルの免疫が維持できるという意見もありますが、ワクチン株が変更されたら1回接種では足りないと思います。当院は2回接種を推奨しています。
 理由のもう一つは、現在使用されているワクチンは不活化ワクチンであり、そのために効果が長続きしないことです。約半年間で免疫抗体価は大きく減弱してしまいます。効果の長い生ワクチン(商品名;フルミスト)は米国ですでに実用化されていますが、日本では臨床試験の最中で評価がまだ定まっておらず、当院は採用(個人輸入して接種すること)を今のところ見合わせています。登場したばかりの頃は高い有効率が期待されていましたが、昨季は評価をかなり下げたようです。

 インフルエンザワクチンの有効性には、しばしば疑問が持たれています。接種したにもかかわらず罹ったという方も少なくないと思います。2014〜15年に行われた慶応スタディ(4727人の小児を対象にした大規模調査)は、「生後6〜11ヶ月の乳児で効果を確認できず。1〜12歳の幼児・学童で6〜7割の発症防止効果あり」という結果でした。ワクチンの種類や調査対象・方法などの違いにより、得られる結果は様々でこれが決定版というわけではありませんが、6〜7割という数値は他のワクチンに比べてあまりにも低いです。しかし、「だからインフルエンザワクチンは不要」という結論にはなりません。インフルエンザは流行規模が格段に大きいため、ワクチンにより患者数を減らす効果は大きく現れます。インフルエンザは毎年国民の1割以上、つまり1000万人以上の人々が罹る病気です。この1000万人全員がワクチンを接種していたとしたら、600万人はインフルエンザに罹らずに済んだことになります。ワクチン接種が学級閉鎖や欠勤を減らすことはすでに証明されています。学童への集団接種が行われていた時代、高齢者の超過死亡(インフルエンザ関連死亡)や乳幼児のインフルエンザ脳症が抑えられていたことも証明されています。個人的な防衛は不十分でも、社会的な(集団的な)防衛の意義は大きいといえます。特に「効果が確認できない」とされた乳児がいる家庭では、他の家族全員がワクチンを接種することにより、インフルエンザを持ち込まない方策が有用です。また、保育所に通う乳児(生後6ヶ月以上)には接種を考慮してもよいと思われます。