朝起きてみたら、布団に大きな世界地図。しまった!またやっちゃった!と気付いた時にはもう遅い。子どもの頃にそんな体験をされた方は少なくないと思います。子どもにとっても親にとっても、深刻な悩みの一つである「おねしょ」について考えてみましょう。
おねしょは、眠っている間に作られる尿の量と、その尿を蓄える膀胱の大きさのバランスが悪いときに起こります。つまり、尿量が多すぎるか、膀胱が小さすぎると、あふれた尿がおねしょとして出てきます。5~6歳を過ぎても月に数回以上、おねしょをすることを「夜尿症」といいます。夜尿症は6歳児の約10%にみられます。まれな病気ではありません。
夜尿症は、放っておいても自然に治ることがほとんどです。しかし、治るまでに長い期間を要することがあります。治りにくい夜尿症の特徴は、寝てすぐ(零時前)に夜尿がある、朝までに2~3回の夜尿がある、昼間におもらし(尿失禁)をする、などです。これらを持つ子どもは、医療機関に相談することをお勧めします。そのような特徴がなくても、夜尿症を早く治したいと願う子どもは、医療機関に相談してみましょう。キャンプや修学旅行などの泊まりがけの行事が、治したいと考えるきっかけになることが多いようです。医学的に正しい治療を受けることで、夜尿症の治癒率は大幅に向上します。治療の対象となる年齢は5~6歳以上です。当院は、小学生になってもおねしょが治らない子どもたちを診ています。
夜尿症の子どもを持つ親御さんに求めたいことは、「怒らない、焦らない、起こさない」の三原則です。夜尿症の子どもは、好んでおねしょをするわけではありません。無意識のうちに起こったことを責められても、どうしていいのか途方に暮れるだけです。「できないことを叱らない、できたことを褒める」は育児の大原則であり、おねしょにも通用します。また、夜中に無理やり起こしてトイレに連れていくことは逆効果です。睡眠のリズムを乱されることで、抗利尿ホルモン(尿量を減らすホルモン)の夜間分泌が妨げられ、結果的に夜尿症を悪化させます。”トイレおねしょ” とでも言うべきもので、夜尿症の解決にはなりません。
夜尿症の一部は、生活習慣を見直すだけで治ります。最も重要な事は水分のとり方です。朝から昼過ぎまでは水分をたっぷりとって構いませんが、夕食から就寝までは制限します。夕食を就寝の3時間前までに済ませる、夕食時の汁物や夕食後の果物を避ける(昼食までにとる)、夕食の塩分を控えめにする、水分の一気飲みを避ける(冷たい水より温めの水か茶がいい、または氷をなめる)などの工夫をしてみましょう。また、膀胱を大きくするために、おしっこの我慢訓練が有効な場合があります。尿意を感じてもすぐにトイレに行かず、ぎりぎりまで我慢する訓練です。ただし我慢のし過ぎは膀胱炎の原因になることがありますので、医師の指導のもとに行って下さい。冬季は寒さ(冷え性)への対策も重要です。就寝前に入浴して身体を温めたり、寝具を予め温めておくと、夜尿症の軽減につながります。
以上の工夫をしても夜尿症が治らない場合、医療機関にご相談下さい。夜尿症を治すための薬物療法があります。1年間の治療で約50%の子どもが治ります。ただし、薬の効果には個人差が大きいです。さらに、子ども本人の意欲と家族の協力が、治療の効果に大きく影響します。夜尿症は必ず治る!と信じて前向きに取り組む姿勢が大切です。