2011年9月1日

ワクチンで子宮頸癌を予防する(改訂第二版)

 ワクチンは感染症を予防するばかりでなく、癌(がん)の発症防止にも役立っています。ここに紹介する「2価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(サーバリックス)」は、女性の子宮頸癌を予防する画期的なワクチンです。


 子宮頸癌は女性特有の癌として乳癌に次いで多く、日本では毎年約15000人が発症し、約3500人が死亡しています。特に若い世代(20~40歳)に起こりやすく、結婚や妊娠・出産を迎える年代にとって大きな脅威です。検診で早期発見と治療が可能ですが、日本における受診率が約20%と先進国中で最低のため、いまだ根絶には程遠い状態です。

 子宮頸癌はヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染によって発症します。HPV自体はごくありふれたウイルスですが、感染者の千分の一が子宮頸癌に進行します。HPVの中で最も危険な型は16型と18型です。悪性化するスピードが速く、高い発癌性を有します。この2種類が子宮頸癌の原因の約70%を占めます。他にも13種類ほど(45型、31型、52型、58型など)が発癌性を有し、子宮頸癌の原因の残り30%を占めます。

 HPVの子宮頸部への感染は、ほとんどが性交渉によるものです。性交経験のある女性の約80%が、発癌性を有するHPVに一度は感染するとされています。しかし、HPVに感染してもほとんどは一過性で、ウイルスは自然に排除されます。ごく一部のケースで(千分の一の確率で)ウイルスが排除されずに持続感染し、数年から十数年かけて前癌病変から癌に進行します。

 サーバリックスは、子宮頸癌を起こす危険度が特に高いHPV16型と18型に対する免疫を作るワクチンです。このワクチンを接種することにより、HPV16型、18型の子宮頸部への感染を完全に排除することができます。また、構造上16型に近い31型、18型に近い45型に対してもある程度の予防効果が認められます。サーバリックスはHPVの殻だけで出来ており、HPV自体を含んでいないため、感染力も発癌性もありません。安全度のきわめて高いワクチンです。

 初交前の子どもにサーバリックスを接種すると、子宮頸癌の発生を約70%防ぐことができます。すでに性交経験のある15~45歳の女性に対しても、一定以上の効果を期待できます。ただし、16型と18型(一部、31型と45型)以外のHPVに対する免疫効果は、サーバリックスにはありません。また、万一すでに前癌病変や癌化が始まっている場合、その進行を食い止める力はありません。したがって、サーバリックスを接種したからもう大丈夫ということではなく、20歳以上を対象として2年に1回実施される子宮頸癌の定期検診は必ず受けてください。

 子宮頸癌予防ワクチンは2006年に初めて認可され、現在、約120ヶ国で使用されています。日本では2009年12月に導入されました。ワクチンは10歳以上の女性に接種できます。公費助成の対象は中学一年から高校一年です(今後、制度が変わる可能性があります)。接種は0、1、6ヶ月後の計3回で、上腕三角筋部に筋肉内接種します。予防効果は、少なくとも20年間は維持されると推計されています。

 なお、2011年9月に「4価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(ガーダシル)」が他社から発売されました。こちらも子宮頸癌(HPV16型、18 型)に対してすぐれた予防作用を発揮します。また、性感染症の尖圭コンジローマ(HPV6型、11型)の予防作用もあります。接種は0、2、6ヶ月の計3回で、上腕三角筋部に筋肉内注射します。

 当院で子宮頸癌予防ワクチンの受付を行っています。詳しくは「お知らせ」欄を御覧ください。


【追記(9月3日)】
 2011年9月15日から、サーバリックス、ガーダシルの両ワクチンが、公費助成の対象になります。どちらを選んでいただくか、少々悩ましい問題が生じました。

 サーバリックスは、子宮頸癌の原因になる高リスク型(16、18型)のヒトパピローマウイルスを予防します。ガーダシルは、高リスク型(16、18型)に加えて、尖圭コンジローマ(性器いぼ)など性感染症の原因になる低リスク型(6、11型)のヒトパピローマウイルスも予防します。

 単純に比較しますと、低リスク型(6、11型)の予防効果も併せ持つガーダシルの方が優れているように見えます。しかし高リスク型(16、18型)に対する予防効果について、サーバリックスの方が免疫抗体価の上昇が良いこと(ガーダシルの2~9倍)、他の高リスク型(31、45型)に対する交差反応が良いこと、免疫抗体価の持続期間が長いこと(ガーダシルの2倍以上)など、サーバリックスの方に軍配が上がるようです。子宮頸癌の予防に特化すれば、サーバリックスの方が優れているように見えます。ただしこれは米国の臨床データであり、日本では両者の直接比較研究は行われていません。

 以上から、サーバリックス、ガーダシルには一長一短の性質があり、どちらが優れているとは一概に決められません。どちらも優れたワクチンであるというのが結論です。皆様のご希望に添ったワクチンを接種いたします。ただし、ガーダシルの発売当初は供給量が十分ではありませんので、サーバリックスをお勧めする場合もあります。ご了承ください。

(2011年1月23日 初版、 9月3日 改訂第二版)